帰らないと

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「ここは近場にスーパーなんてないから、自給自足に近い生活だった。この集落の土地は土地神が産み出した物。土地神の力が満ちるこの土地で育った物を食べ、この土地の地下から湧き出る水を飲むということは、土地神の力を摂取していることと同義なんだよ。つまり、普通に生活をしているだけで住民は土地神の支配下に置かれることになるんだ。儀式で子供が受ける行為は、一年で消費した力を子供を使い取り戻すためのもの。そして、土地神の支配力を強固にし、確実性を持たせるためのものなんだ。大人になって集落に入ってきた人たちは、儀式を経験していないから支配の影響が弱いんだ。あの時、おじさんが否定する意思を見せたのは、俺が儀式を乱して土地神の支配が一時的に弱まったからだと思う」  オカルト色が一気に強まり、胸糞の悪さ以上に胡散臭さが倍増する。けど、何だろう……。集落に入ってから感じる妙な気配に思考まで侵蝕されたのか、この突拍子もない説明に納得している自分がいる。  一通り話終えたのか、拓馬さんは祭壇から身体を離し、俯くみたいに身体を僅かに屈ませた。その際、深いため息をつき、どことなく苦しそうな表情を見せた。 「隆治が男と言い争っていた、あの日。俺は最初見て見ぬ振りをしようとしていた。だけど、できなかった。その後、もっともらしい理由を並べて恋人関係を築こうとしたけど、なぜそんなことを言ったのか当時は分からなかった。でも、付き合いはじめて、ようやくその時の気持ちが理解できた。俺は、出会った頃から隆治のことが好きだったんだ。隆治と関係を築きたいと無意識に望んでいた。だから、助けた。だから、『付き合おう』なんて台詞が出た。隆治の側にいたいと思ったから」 「拓馬さん……」
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