帰らないと

　この集落の儀式は大人のもので、子供が教えられるのは十五歳になってから。しかも、儀式の直前。拓馬さんが事件を起こしたのは十三歳の時で、まだ儀式を知らされる年齢ではない。それなのに、拓馬さんは土地神の存在や子供が供物になることなど、現場を見ただけでは判断できないような内容も知っていた。それどころか、儀式の目的さえ知っていた。
　集落の人間全員が亡くなったわけではないだろうから、誰かが話して聞かせたということは考えられる。しかし、集落を大きく揺るがす事件の後、はたして子供に真実を伝えるだろうか。ましてや事件の渦中にいて、記憶を失ってしまうほどのショックを受けた子供に……。
　色々と推察し、理由を考えることはできる。でも、本人にそれを直接問い質し、この矛盾を指摘することはできない。俺は疑問を抱えつつ、口をつぐんだ。
　けど、拓馬さんは自分で矛盾に気づいてしまった。

「……あ、俺、なんで儀式の内容を知っているんだ……？　まだ教えてもらってないのに……。それに、なんだ……土地神の目的って……。……なんで、こんなことを知っているんだ……」

　バッと俺から離れた拓馬さんは、顔を青ざめさせる。ブツブツと口の中で自問自答を繰り返し、震える両手で頭を抱えた。

「きっと、誰かから聞いたんだよ」

　そう声をかけるが、気休めにもならない。拓馬さんは「違う、誰にも聞いていないっ」と、全力で否定する。

「隆治……、怖い……。怖いんだ。助けてくれ……」

　拓馬さんが怯える子供のように縋りついてくる。

「……俺は儀式を穢した……。土地神を……怒らせた……」

　身体と共に声が恐怖に震える。

「俺は……土地神を――狂わせた」

　そう拓馬さんが発した瞬間、室内の空気が一変した。