帰らないと

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「柚木さん、来なかったね」 「そうですね」  夕方、夜のシフトと交代で店を出た俺と佐々木さんは、裏の駐輪場で拓馬さんの話をした。  結局、拓馬さんはバイトに出てこなかった。帰り際、店長に確認したが、連絡の方もなかったようだ。 「もしかして、病気で倒れているとかじゃないよね」 「病気……。でも、昨日は元気そうだったけど」  病気の可能性を持ち出され、昨日の様子を思い返してみる。思い出されるのはいつもと変わらない様子だが、ふいに違和感ある姿がよぎった。 「……そういえば、昨日、ちょっと変だったな」 「変? どんな風に」 「何か、時々ぼんやりとしてたんです。それで、独り言みたいに『帰らないと』って言ってました」 「……帰る? どこに?」 「さあ? わかんないです。実家とか?」  昨日の昼、俺は拓馬さんと一緒にいた。と言っても、外で昼を一緒に食べた後、拓馬さんが新刊を買いたいと言ったので二人で書店に行っただけ。普段通りの時間を過ごした中で、その一瞬の様子だけが少し気にかかった程度。懸念する健康状態などは特に異変を感じることはなかった。ただ、夕方に別れた後は連絡を取り合ったりしていないので、以降の動向は分からない。  駐輪場で佐々木さんと別れた後、気になった俺はすぐに拓馬さんへメッセージを送ってみた。 『今日はどうしたの?』  しばらく待つが、既読はつかない。 『風邪でもひいた? 何か持っていこうか』  続けて送るが、やはり既読はつかない。  佐々木さんの言っていた病気の可能性が頭をよぎる。最近、朝晩は冷え込むようになったし、風邪をひいたということも十分に考えられる。 「……まさか、本当に倒れてるとかないよな」  急に怖くなり、俺は急いで拓馬さんの部屋へと向かった。
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