5人が本棚に入れています
本棚に追加
/44ページ
「柚木さん、来なかったね」
「そうですね」
夕方、夜のシフトと交代で店を出た俺と佐々木さんは、裏の駐輪場で拓馬さんの話をした。
結局、拓馬さんはバイトに出てこなかった。帰り際、店長に確認したが、連絡の方もなかったようだ。
「もしかして、病気で倒れているとかじゃないよね」
「病気……。でも、昨日は元気そうだったけど」
病気の可能性を持ち出され、昨日の様子を思い返してみる。思い出されるのはいつもと変わらない様子だが、ふいに違和感ある姿がよぎった。
「……そういえば、昨日、ちょっと変だったな」
「変? どんな風に」
「何か、時々ぼんやりとしてたんです。それで、独り言みたいに『帰らないと』って言ってました」
「……帰る? どこに?」
「さあ? わかんないです。実家とか?」
昨日の昼、俺は拓馬さんと一緒にいた。と言っても、外で昼を一緒に食べた後、拓馬さんが新刊を買いたいと言ったので二人で書店に行っただけ。普段通りの時間を過ごした中で、その一瞬の様子だけが少し気にかかった程度。懸念する健康状態などは特に異変を感じることはなかった。ただ、夕方に別れた後は連絡を取り合ったりしていないので、以降の動向は分からない。
駐輪場で佐々木さんと別れた後、気になった俺はすぐに拓馬さんへメッセージを送ってみた。
『今日はどうしたの?』
しばらく待つが、既読はつかない。
『風邪でもひいた? 何か持っていこうか』
続けて送るが、やはり既読はつかない。
佐々木さんの言っていた病気の可能性が頭をよぎる。最近、朝晩は冷え込むようになったし、風邪をひいたということも十分に考えられる。
「……まさか、本当に倒れてるとかないよな」
急に怖くなり、俺は急いで拓馬さんの部屋へと向かった。
最初のコメントを投稿しよう!