帰らないと

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 指の動きに合わせて身体は小さな反応を返し、拒絶を発する声にも僅かな熱がこもる。そして、覆い隠す物がなく無防備に晒されている陰茎は、先端から透明な液体を滴らせながら勃ちはじめていた。  誰の目から見てもはっきりと分かる変貌に、影たちの視線が向けられる。  聞こえないはずの笑い声と興奮した息遣いが至る所から伝わってくる。  視線に嫌なものを感じ咄嗟に身構えるが、自由を奪われている俺には防ぐ術はない。俺の陰茎は、どこからか伸びてきた黒い手によって掴まれてしまった。 「――やめ……ろっ!」  抵抗の声など聞く耳を持たない。影の手は、緩急をつけた動きで容赦なく扱いてきた。 「はっ……はぁっ……あぁ……」  人の手のようで人のものとは異なる質感がもたらす刺激。肌に触れられただけで快楽にのまれかけた俺が、敏感な部分に触れられて抗えるはずもなかった。  俺は促されるまま、いとも簡単に果ててしまった。 「はぁ……はぁ……」  畳の上に散らばる白い液体の跡。脱力感と共に襲いくる虚脱感を感じながら、俺はそれを見つめた。 「…………うっ」  ずっと感じていた異臭に混じり、男の放つ臭気が鼻につくようになりはじめる。それに合わせて、俺を取り巻く空気の熱量もにわかに上がってきた気がする。  この空気の変化が意味することは容易に想像できた。  まだ終わらない……。  そんなことを虚ろに考えながら、俺は視線を上げた。 「…………!」  影たちは、俺を見下ろして満足そうに笑っていた。見えない口の口角を上げ、肩を上下に震わせ、ニタニタと目を細めて。  そんな影たちに現れていた変化。  視線を正面に向けた際に視界に入り込む異物……黒い影たちの陰茎。これまで存在を感じさせなかったそれが、眼前で雄々しく勃ち上がり、己の欲を主張していた。  ――これからが本番だ。  そんな声が聞こえた気がした。
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