帰らないと

33/44
前へ
/44ページ
次へ
 影は挿入するなり、乱暴に腰を振りはじめた。相手のことなんて微塵も考えない、己の欲だけに忠実な動きで。 「――ひぁっ! ……やめっ! ……あっ、あぁ……」  腹の奥に打ち付けられる重く硬い衝撃。初めての感覚ではないのに、苦しかった。好きでもない男としても、乱暴に扱われても感じなかった苦痛と恐怖が、突かれるたびに押し寄せてくる。  影の陰茎に変化が見えはじめた時、たしかに周囲の熱量の上昇を感じた。それなのに、今、俺の中を満たしているものには、それがない。だからといって無機質な冷たさがあるわけでもない。熱くも冷たくもなく、溶け込み一体となった体温でもない。表現しがたい異物感がそれにはあった。  影に与えられる、違和感ある快楽。それは、内側から何かに侵蝕されていくような悍ましい感覚……。  人ではない異物に犯され恐怖に心が拒否反応を起こす。なのに、影の陰茎を直接感じる肉体は、それをより強く求めようと蠢いている。 「……拓馬さん……たすけ……ああっ!」  いつの間にか、俺は泣いていた。犯される恐怖とは異なる何かに怯え、子供みたいに声を上げ……。  そして、泣きながら、引き離された拓馬さんに助けを求めていた。 「うぅっ……、はぅぅ……、拓馬……さん……――うぐんっ!」  突然、髪を掴まれ頭を持ち上げられた。すると、助けを求める声が煩いと言わんばかりに、影の一人が口の中に陰茎を突っ込んできた。  この影も己の欲望のままに動く。俺の頭をがっしりと掴み、息をする暇(いとま)も与えてくれない。だが、この影は達する寸前だったのか、数回動かしただけで呆気なく精液を解き放った。  口内に広がる精液の臭いと、それとは異なる異臭。室内にこもる異臭とは少し違う、炭化したような臭い。
/44ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加