帰らないと

34/44
前へ
/44ページ
次へ
 溢れんばかりの量に加え、耐えがたいこの臭い。俺は影の陰茎と共に口内の異物を必死に吐き出した。そして、吐き出されたものを見て、ぎょっとした。  口内から出てきた液体は、よく知る粘度のある白い液体ではなく、黒く淀んだタールのような液体だった。 「――ひぃっ」  畳の上に、唾液と共にドロリと広がるタール状の液体。異様なもの目の当たりにし、身体が竦む。  混迷し鈍る思考が、一瞬遅れてこの異常性に(おのの)く。俺は押さえ付けられた身体を必死に暴れさせ、ここから逃げだそうとした。  どうにか左腕一本の自由を取り返した。が、解放された腕で影を振り払おうとしても、触れそうになると影は実体をなくし、俺の腕は空しく霞を掻き分けるだけだった。  影は影。実体なんてない。なのに、俺に触れる無数の腕も、俺の中で欲望のまま抽挿を繰り返す陰茎も、確実に実体を伴っている。  堪らず、再び拓馬さんに救いを求める。  ……けど、それは無意味なことだった。  今、ここで抗っているのは、俺ただ一人なんだから……。 「ああっ……あひひぃぃ……。あっ、ああぁっ……」  拓馬さんも影に犯されていた。  拓馬さんは背面座位の体勢で犯されている。両足を大きく開き抱える形になっているせいで、俺からは挿入部分が丸見えになっていた。大きく広がったアナルに挿入された陰茎は太く黒々しく、浮かび上がる血管の様子も見える。そんな雄々しい陰茎を、拓馬さんのアナルは拒むことなく受け入れている。むしろ、望んで吸い付いているみたいだった。  影に囚われる前から精神が崩れかかっていた拓馬さんは、影の与える快楽に完全に堕ちていた。  影が陰茎を突き上げるたびに、拓馬さんは焦点の合わない視線を揺らし、狂ったような嬌声をあげている。その様は、まさに狂乱といった感じだ。
/44ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加