帰らないと

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 あまりに(むご)い痴態に目を逸らしたくなるが、影たちは俺たちの関係を知っているのか、それから視線を逸らせないように頭を押さえ付けてくる。拓馬さんを犯す影もそれを理解してか、時おり俺の方に視線を向けながらニタリと目を細めてくる。そして、俺を嘲るように拓馬さんに顔を近づけ、長く太い舌で至る所を舐め回している。  俺は、拓馬さんが犯される姿を見せつけられながら、影に犯され続けていた。  今の状況は、拓馬さんが話してくれた儀式の再現に思えた。  この影たちは、おそらく神社で亡くなった男たちの成れの果て。こんな姿になってまで儀式に執着するなんて、悍ましいの一言しかない。  だけど、拓馬さんを犯す影は、俺の周りにいる影とは少し異なって見える。影の姿は、俺の周りにいる影と同じで、全身が黒一色に染まっている。だから最初は同じ存在だと思っていた。しかし、時間が経つほどに、その様相は変わってきていた。  俺の周りにいる影は、一応人の形をしているが、最初に得たぼんやりとした輪郭のまま変化はない。一方で拓馬さんを犯す影の方は、行為を重ねるたびに曖昧だった輪郭をはっきりとさせ、今では些細な表情の変化や、しなやかなに動く筋肉の有様もしっかり確認できるほどになり、完全に人の姿として認識できる程までになっていた。  さらに異なる部分は、その大きさだ。拓馬さんを犯す影は、他の影に比べ一回り以上大きく、腕など様々な部位の筋肉も太く逞しい。その体躯の良さが異様な威圧感を生み、異質な気配を感じさせる。  その影も人の姿をしているのだから、元は人間に違いないと思う。……思うけど、何かが違う気がしてならない。  生きた人間とも、俺の周りにいる影たちとも明確に異なる別の存在……。  もしかして、この影が……。
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