帰らないと

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「たかはるぅぅ~。あひひぃぃ~。ずっと……お前を犯……したかった。よがり……狂うぐらい……げひひっ……」  左右で異なる表情を浮かべ、不気味に笑い続ける拓馬さん。彼の陰茎は、何度も射精した疲弊を感じさせない逞しさを湛えていた。  俺は、ただ虚ろに拓馬さんを見上げていた。  キスで絆されたのか、影に犯され続けた俺自身も変わりはじめていたのか、蝕んでいた恐怖心が急に薄らいでいくのを感じていた。それどころか、相手が拓馬さん本人だというこ事実に、胸の高鳴りを覚えるほどだった。 「……拓馬さん。俺を抱いて」  誘うように腕を伸ばし、そう懇願すると、拓馬さんは不気味な笑みの端に普段の穏やかな笑みを見せ、唇を重ねてきた。 「…………隆治、ごめん……」  少し離れた口から聞こえた、消え入りそうなほど小さな懺悔。  それを最後に、穏やかな拓馬さんの姿は消えた。 「ああっ……拓馬……さん……。拓馬さん……んん……あぁ……」  どのくらい時間が経ったのだろう。障子越しに差し込んでいた白い光はすっかり消え、室内を満たすのは夜の闇。視界を覆う闇の中、拓馬さんは狂ったように腰を振り続けていた。ぼんやりと灯る蝋燭の明かりに浮かぶその姿を見つめながら、俺は喜びを感じていた。  ――これが拓馬さん。拓馬さんの雄の力……。  今まで経験した誰よりも力強く、俺に快楽の悦びを与えてくれる人。 「拓馬さん……もっと、もっと強く……ああんっ……」  異常な状況下に置かれながら、俺は全身で拓馬さんを感じていた。淫らな感情を隠すことなく全身で表し、抑えることなく嬌声をこぼして。 「たかはるぅぅ~……、はひひぃ……、一つになろう……おれたちぃ……ひと……つにぃぃ……」  拓馬さんから流れ落ちる黒い汗が、俺の身体を黒く黒く染めていく。  中を満たす拓馬さんの黒い欲が、身体の奥から俺を変えていく。  ――拓馬さんと一つになっていく、この喜び。  狂喜に溺れ、何度も拓馬さんとキスを重ねる。  拓馬さんの背後に聳える黒い影がニタリと笑い、三日月の形をした真っ赤な口を浮かべる。  拓馬さんの狂った声と重なるように発せられる不気味な笑い声と共に、俺たちは黒い影に全てを満たされた。
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