帰らないと

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   ◇ ◇ ◇ 「柚木くんと河野くん、まだ見つからないままなの?」  ファミレスの休憩所で、パートの千崎が店長に尋ねる。店長は少し疲れた表情で静かに頷く。 「でも、二人のバイクは見つかったんですよね」  バイトの大学生、佐々木も続けて尋ねる。 「ああ。柚木の実家だった場所に二人の足跡があったようだ。……室内に足跡とか痕跡が残っていたらしいけど、そこに二人は居なかったみたいだ。あと……」  店長は何かを言いかけたが、口をつぐみ二人から僅かに視線を逸らした。 「けど、柚木くんの故郷があの集落だったなんて……」  千崎は視線を落とし、小さくため息をつく。 「ええ……、驚きです。あの事件、かなり衝撃的でしたから」 「……そんなに大きな事件だったんですか? その放火事件って」 「まあね。事件の規模もだけど、放火された場所や状況が特殊だったから、色々と憶測を呼んで多方面から関心を持たれた事件だと思うよ。ネットの掲示板でもかなり話題になっていた」 「私も週刊誌で特集されているのを読んだ記憶があるわ。……そう言えば、その事件の犯人って何年か前に獄中で亡くなっているのよね」 「たしか、事件から三年後くらいで、三十六歳で亡くなったって記憶してます」 「そうそう。犯人、同年代だったから驚いた記憶があるもの」 「結婚して集落に来た人だったんですよね、その犯人。やっぱり動機って、あれですかね? 田舎特有の……」 「どうなのかしらね。それでも、やり過ぎだと思わない? 神社に集まっていた人たちを無差別に焼き殺すって。しかも、被害者の中に奥さんも居たって話でしょ」 「二人とも、それ知ってて止めなかったんですか」  二人が陰湿な集落の姿を想像しながら話していると、若い佐々木が正論を言い放つ。すると、二人は気まずそうに口を閉ざした。
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