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真面目な顔して先輩はそう言うけれど、俺は自分の性格がいいなんてこれっぽっちも思ったことはない。
顔が良い自覚は、あるけれど。
「冗談言わないでくださいよ。俺、顔だけの男です」
「自分でそれを言うなよ」
けらけらと笑った先輩が、俺の肩をバンバンとたたく。……先輩のこういう軽いノリ、嫌いじゃない。
「言っておきますけれど、俺、性格あんまりよくないですからね」
近くのカップを手に取って、水を飲みつつそう言う。……心配性ではあるけれど、優しいわけじゃない。人がいいとは言われるし、その自覚はあるけれど、誇れるようなレベルじゃない。
「……でもね、僕はフリント君が優しいことを知っているし」
「……何処を見て」
「だって、ずっと冒険者たちの心配しているしね。……この仕事続けているとさ、割り切ることも必要だって思うんだけれど」
先輩が、遠くを見つめてそう零す。……あー、それを指摘されると辛い。視線を、自然と彷徨わせた。
「でもまぁ、そこがフリント君のいいところだし。誇っていいよ」
「俺が誇るのはこの美しい顔だけです」
「本当、キミはナルシストっていうか……」
呆れたような視線を俺に向けてくる先輩。……ナルシストなのは、自覚がある。だって実際、俺、顔良いし。
「けど、それも嫌味にならないのがすごいよ。……僕が言ったらいろんなところから怒られるよ」
「……そうですか? 先輩もきれいな顔だと思いますよ?」
「……キミねぇ」
そんな会話をしつつ、俺たちは笑う。こんな他愛もない世間話が出来るのも、全部今が閑散としているから。
……冒険者が帰ってきたら、そうはいかない。
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