vixen

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音がして。 目を開ける。 南側の窓の外で。 雪が落ちた音だった。 立ち上がり、カーテンの隙間から。 窓の外を見る。 季節外れに咲いた、ヒメコブシ。 アパートの前の公園で、陽光に照らされて溶けた雪が崩れたらしい。 真っ白い景色が眩しい。 頭を振る。 誰かとずっと、脳を共有していたような感覚。 「…ジジ?」 そうだ、ジジ。 答えはない。 電脳制御のログを確かめる。 「え」 ジジのプログラムコードが、どこにも見当たらない。 「ジジ?!」 答えは返ってこない。 部屋の明かりも点滅しない。 睡眠状態記録アプリが、悪夢のデータを保存していた。 12月24日? 「夢…?」 最後の睡眠記録から、まる9日間経っている。 『ユウ、ユウ、起きてるか?』 「わっ」 ルガだった。 「いきなり繋ぐなよ!  危ないだろ」 『何怒ってんの?』 とぼけた声を出す。 『お前ここ最近ずっと応答ないから、  倒れてるんじゃないかとか、  みんな心配なって、  悪いとは思ったけど強制接続したんだよ』 『ユウー。  無事かー?』 『ひとり暮らしって言ってたし、  心配したんだぞ』 ミアと、マートの声もする。 また研究室にたむろしているらしい。 特有の不快なノイズがする。 『まあ、無事ならいいや。  はいコレ、メリークリスマス』 ルガが送ってきたのは、サンタが波乗りするアニメーション。 「この動画…」 前にも見た。 あれは現実じゃないのか。 『何?』 白昼夢? 神隠し? 「…いや、南半球だなと思って」 『そういうお前は北半球にいるんだろ』 「分かるの?」 『何年か前のクリスマス、  スノードームのイラストのカード、  送ってきたことあった』 「そうだっけ」 自分も案外、脇が甘い。 動画が終わると。 プログラムコードが開く。 『お前、これから時代遅れの試験なんだろ?  カンニング用のコード貸してやるよ』 あの、文字化け暗号じゃない。 息を吐いた。 『使い方はぁ、…ユウ?』 キツネに化かされるって。 こういうことなんだろうな。 「なんでもない。  ここに俺の参照データ入れればいんでしょ。  正答率は6割くらいがいいな。  参照元は教科書じゃなく記憶データで、  言語表現は過去のレポートを学習させて…」 『マジでお前、うちの研究室入れよ。  いいエンジニアになる』 「でも」 『電脳酔いがあるのもさ、  そういう人のためのものを造ったり、  悪いことばっかじゃないよ』 ジジが言っていた。 脳幹からの回線が一部途切れてるって。 あれは本当だろうか。 「…考えとく」 佑羽が初めて見せた前向きな姿勢に、ルガが目を見開くのが分かった。 「何その顔」 『いや、入試来年だろ?』 嬉しげに、また詰めが甘い。 『試験問題盗んどくから』 「そういうのいいって」 9日間の夢のデータを、保存し。 鍵をかけた。 【豁サ繧薙□蜿九?蠅捺ィ  髢九¢縺ェ縺?%縺ィ】 “死んだ友??墓?  開けな????と” 終
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