2人が本棚に入れています
本棚に追加
“それ”は、静かに目を醒ます。
「お前は一体、何者?」
Lording…
〈ジジ〉
返答にはやや時間がかかる。
「ジジ。
それはお前の名前か、
お前を造った者の名前か、
どっちだ?」
Lording…
〈私の名はジジ。
私を造った者の名もまたジジ〉
やっぱり。
造った奴は、自分自身の脳をコピーしたんだ。
「お前を造ったジジは、何者?」
Lording…
「おい」
Lording…
「もしもーし」
Lordingのままフリーズしてしまった。
「壊れたのか」
と、思ったら。
部屋の明かりが急につく。
「は?」
キッチンの電子レンジが周りだし、空調が音を立て始める。
「…ジジ、お前か」
明かりが点滅する。
答えと受け取って良さそうだ。
この部屋の制御を奪ったのだろう。
Lording…
〈12歳。女。ハッカーだよ〉
「12歳で?」
Lording…
チカチカと明かりが点滅する。
「勝手に電化製品をいじくるな」
フオンと音がして、空調が止まる。
「ジジはなぜ、お前を造った?」
Lording…
また考え始めた。
どうも言語機能を使うコミュニケーションに時間がかかるらしい。
答えを待つ間に、朝食代わりのコーヒーを淹れに行く。
立ち入ると勝手にキッチンの明かりがつき、ケトルに水を入れると勝手に沸かし始める。
「ジジ…」
フオン。
切れたスイッチを入れ直して、お湯を再び沸かす。
キッチンで淹れたてのコーヒーを啜りながら、ルガに話そうと通話を試みた。
でも、ルガの応答はない。
虚しく響く呼び出し音を1分以上聴き続けて、バカらしくなってやめた。
明かりがゆっくり点滅する。
言いたいことがあるのだろう。
ルガの大学のコンピュータを使えば、もう少し早く会話できるだろうが、今のところは借りようもない。
今使える、一番処理の早いハードと言えば。
「やっぱ脳か」
“それ”は明かりが微かに陰って、同意を伝えてくる。
チップを通して脳に直接取り込んで起動すれば、きっともっと早い。
一瞬。
躊躇した。
無音。
暗闇。
ルガが通信を強制切断した時のことを思い出した。
危険だ。
危険?
「何もかも、無意味なんだろ」
何も怖くない。
そう言って。
ダウンロードする。
最初のコメントを投稿しよう!