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りん。
と、鈴の音が聞こえた。
その鈴の音は、いつだってとても澄んだ音だった。
けれど、それが鳴るのがあまり良いことでないのを鈴は知っていた。この鈴の音が聞こえるときは、その人が人ならざるものと出会った時だからだ。
人ならざるもの。
幽霊。怪異。妖怪。物の怪。言い方はたくさんあるけれど、そんなもの。
それらは、ネットで語られる怪談や都市伝説のようなものとは少し違う。祟られる。とか、呪われる。なんてことは、まずない。そんなことができるのは、人ならざるののの中でもエリート中のエリートでオリンピックメダリスト並の特殊な存在だ。
それ以外の大多数はただ言いたいことを言うだけだったり、ちょっとした悪戯をしたりするだけの迷惑だけど無害(?)なものたちだ。鈴も子供の頃はいちいち反応しては、一緒になって悲しんだり怒ったりしていたし、怪異に悩む人たちを救いなさいと言われる度、恨めしく思いながらも、何とか従おうと努力していた。
けれど、鈴と同じようにそれらが見えていたはずなのにその人が『そんなものいない』と言ってくれてから、鈴は変わった。そう言い切ってくれたその人のようになりたいと思った。
多分、その人はそう言うことで鈴の気持ちを楽にしようとしていただけだ。けれど、鈴にとってその言葉はもっと別の意味を持っていた。怪異が見えていても見えていなくても、自分の人生には殆ど関係ないと思えるようになったのはその言葉があったからだ。
そんなものにいちいち心を動かすことがなくなった頃には人間に対してすら、感情を動かすことがなくなってしまったのは、よかったのか悪かったのか判断がつきかねる。ただ、元々一人が好きだった鈴はそれでもよかった。流行りのアイドルやゲームの話に無理についていこうとするのをやめると、息をするのがとても楽になった。
年頃になって『美少女』のようだった容姿が『イケメン』と、表現できるようなものに変わってからは、周囲はまた騒がしくなったけれど、その頃にはもう、そんな雑音には殆ど動じないようになっていた。毎日毎日付きまとっては朝から次の朝まで恨み言を吐いてくる人外に比べれば、夜にはいないだけ『まあ、ましか』と、思えた。
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