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私が住んでいるのはスプリング村の外れ。パンプキン伯爵はオータム村だから、結構遠い。かなりの時間、空を飛んだ。秋の夜空は少し寒くて、手がかじかんできたころようやく大きなお屋敷が見えてきた。
入り口には大きなかぼちゃ頭の男性が立っていた。
「やあやあ、小さなレディ。マリア様。ようこそ、パンプキン伯爵邸へ!」
かぼちゃには目と鼻と口があって、目だけがチラチラ光っている。パンプキン伯爵は仕立ての良い礼装で、背筋をのばして立っていた。私はほうきから降りると、礼儀としてひざをかがめてあいさつをした。
「このたびはご招待いただきありがとうございます」
「はい、よくできました!」
パンプキン伯爵はそう言って私の背中を押した。ほうきはまだ仕事があるのか、どこかへ飛んでいく。
「食事が冷めてしまう。さあさあ、中へどうぞ」
パンプキン伯爵は弾むような声で言うと、屋敷のとびらを閉めた。
「パンプキン伯爵はお母さんの友だちなんですか?」
「いいえ? どちらかと言えば仕事仲間です」
パンプキン伯爵はそう言ってディナー会場へと案内する。グーグーは鼻をヒクヒクさせて先頭を歩いていた。ポポはリュックから顔をのぞかせて様子を見ている。
ろうかにはたくさんの甲冑が並んでいて、甲冑の間にはろうそくが宙を浮いて並んでいる。明るいろうかを真っすぐ歩き、最後に左に曲がった部屋がディナー会場だった。
「わあ、魚のにおいだぜ!」
グーグーは走り出した。細長いテーブルの長い方にグーグーとポポ用の背の高いイスが置かれている。そのうちの片方にグーグーは飛び乗った。
「グーグー! まだ食べちゃダメ!」
「わかってら! 早く席につけ」
私はポポを席に着かせてから、パンプキン伯爵のエスコートで席に着いた。テーブルには肉、魚、野菜、果物、いろんな材料のいろんな料理が置かれていた。パンプキン伯爵も席に着くと、空のグラスをかかげた。
「僕はワインをいただこう」
そう言うとワインボトルが現れて、パンプキン伯爵のグラスをなみなみと注いだ。
「レディ。お好きな飲み物をどうぞ」
私もグラスをかかげると遠慮がちに「リンゴジュース」と言った。すると透明なボトルに黄色味の透明な液体が入っているのが現れて、私のグラスを注いでいった。
「乾杯」
パンプキン伯爵がグラスをこちらに向けた。私も「乾杯、伯爵」とグラスを上げた。するとグーグーとポポは目の前の食事に口をつけ始めた。グーグーの前には焼き魚が、ポポの前にはキレイにカットされた野菜や果物が並んでいた。二人は遠慮せずに食べて行くが、半分も減ったところで、いつの間にかまた大盛りになった料理があらわれていた。その様子が私には不思議だったし、グーグーとポポがおいしそうに食いつく様子がかわいらしく、目が離せなかった。
「レディはあまり食べないのですね」
パンプキン伯爵はワインを傾けながら言った。
「あ、ごめんなさい」
「いいえ。少食だと聞いています。お口に合う料理があれば、好きなだけ食べてくださいね」
私はようやく目の前の黄色に近いクリーム色のスープをスプーンですくって口に入れた。
「……おいしい!」
「よかった。それは僕の自慢のかぼちゃのスープです」
「パンプキン伯爵のかぼちゃのスープ?」
私がパンプキン伯爵の顔をジッと見ると、パンプキン伯爵は肩を揺らしながら笑った。
「大丈夫、自然のかぼちゃを使って作ってますよ。この頭の中はもう空っぽですから――中を見てみます?」
「い、いいです」
私は首を横に振ると、もう一口スープを飲んだ。
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