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食事を終えたグーグーとポポはイスのうえで丸まって寝てしまった。
私はパンプキン伯爵に「すみません、二人が……」と申し訳なさそうに言うと、パンプキン伯爵は「いえいえ。むしろ好都合です」と言って私の横にイスを出すと、そこへ移って座った。
「僕は友だちを連れてきてと言ったのに、まさか黒猫とミニブタさんだとは思いませんでした」
私はハッとして答えた。
「ごめんなさい。私、魔女の友だちがいないんです」
するとパンプキン伯爵は手を振って言った。
「謝ることじゃありません。僕なんか、動物の友だちすらいませんし」
「そうなんですか?」
「ええ」
パンプキン伯爵はうなだれるように顔を下に向けて言った。
「レディのお母さんも仕事で忙しいでしょうけど、僕もよく屋敷を空けて仕事ばかりしているんです。そうするとね、仲間はできても友だちができないんです」
「そうなんですか……」
私は思わずパンプキン伯爵のうでをつかんだ。
「私が友だちになります。なりましょう?」
「本当ですか? レディは優しいですね。僕が怖くないんですか?」
私はほほ笑んで言った。
「なら、パンプキン伯爵は私が怖くないんですか?」
「なにが怖いと言うんでしょうか? もしかしてその顔のツギハギですか?」
私はうん、とうなずいた。
私の顔には大きなツギハギのように、青色の肌と肌色の肌が縫い目を境に存在する。これは幼いころ、私の住んでいたウィンター村を襲ったアイスドラゴンの攻撃を受けたときの傷だ。アイスドラゴンの攻撃には呪いが含まれていて、皮膚が変色する呪いがあった。この呪いの解法は今もまだ存在しないらしい。命にはかかわらないけれど、見た目がこんなにヘンなものだから、スプリング村に引っ越してからも魔女の友だちはできなかった。
来年から私は魔女のための寄宿学校に入学するけれど、本当は不安だった。
「この顔を怖がる人ばかりだと思うと、不安よ」
「黒猫とミニブタなら、顔ぐらいじゃ特に気にしない――だから一緒にいるんだね」
「そうです」
そして私はそっと右手でほほに触れた。そこを中心に青色の皮膚が広がっている。
「お母さんはこの傷を責任に思っている。だから仕事を頑張るようになった」
「そうですね。僕たちの仕事は野良のドラゴンを討伐や支配するのが目的ですから」
私は小さく息を吐いた。
「お母さんがすごく強い魔女だって知ってます。それでもいつも心配」
「でしょう。命がけですからね」
パンプキン伯爵は私の背中を優しくなでた。
「レディ。落ち込まないで。きっとその顔は良くなるでしょう」
「顔は……どうでもいいの」
私はこらえていた涙をこぼして言った。
「顔は治らなくても良い。友だちができなくてもいい。本当は毎日、お母さんと一緒に暮らしたいの」
「レディ……」
パンプキン伯爵はハンカチを取り出すと私の手ににぎらせた。
「その気持ち、伝わっていますよ」
「お母さんは知っていて、仕事に行くの?」
「親というのはそういうものなんですよ、きっと」
そうでしょう? ――パンプキン伯爵は私の背に向かって行った。
「ええ、そうよ。パンプキン伯爵。そして、マリア」
お母さんの声が聞こえた。私がふり返ると、部屋のとびらの前にお母さんが立っていた。
「早く仕事を終わらせたの。仕事場から家より、パンプキン伯爵のこの屋敷の方が近くて助かったわ」
そう言ってお母さんは駆け寄って私をギュッと抱きしめた。
「さびしい思いをさせているのは分かっているの。でも、お母さんは、責任がある。あなたを幸せにする責任。あなたの傷を治す責任」
私はお母さんの胸にすがりながら泣いた。
「そんなの、お母さんが一緒にいてくれれば良いのに!」
「あなた、本当はそう思っていたのね……言わないんだもん、分からないわ」
「分かってよ」
ウソだ。私はわざとお母さんの前で良い子を装っていた。一人でもお留守番ができる大人なんだとアピールしてきた。でも、本当はさびしくてたまらなかった。
「分かっているわ。でも、もうすこしなの。――パンプキン伯爵のおかげで」
「パンプキン伯爵のおかげ?」
私はそっと顔を上げると、お母さんは「ええ、そう」とうなずいた。
「パンプキン伯爵は変身に関する呪いの研究分野では第一人者なの。今まではこの屋敷に閉じこもっていたんだけど……」
「偶然、レディの話を聞いて、僕は重い腰を上げたんだ」
パンプキン伯爵はそう言って私の頭を優しくなでた。
「キミのような気高く強い、将来有望な魔女が、ドラゴンの呪いで苦しんでいるなんて、見過ごせないじゃないか」
「パンプキン伯爵……!」
私はパンプキン伯爵に抱き着いた。彼はおどろいて飛び上がったけれど、パンプキン伯爵はさっきより少しぎこちない手の動きで私の背中をさすってくれた。
「ありがとう。パンプキン伯爵、大好きよ」
「あらあら、マリアったら、オジ専?」
「そういうんじゃないもん!」
私とお母さんが笑いあう。それをパンプキン伯爵も優しく見守ってくれていた。
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