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高嶺の花
いつも、想っていた。
気がつくと、彼女を探していて、ふと視界に彼女が入ると破顔しそうになった。
でも、素直に彼女と接することもできない。
彼女は、「武家の娘」だから。
正確に言うと、晋作よりも身分は高い。
桂氏の娘。
寄組、毛利氏庶流、給領地は舟木如意寺下小野2,584石。
桂の親戚だ。遠いけど。
そう。短的に言えば彼女は、高嶺の花だった。
足軽の僕が手を出していい身分じゃない。
傲慢で、我儘で、手が早くて、冷たくて、人付き合いも悪い。
顔と腕っ節と才だけある男。
そう、称されてきた。
仲間からは冗談半分に。部下からはおそれ敬遠されるように。
だから、こんな一人の女に心乱されているなんて。
誰が想像できるだろう。
「おい、栄太!、聞いているかっ!!」
玄瑞が叫んでいる。
「ああ、聞いてる。騒がしい医者坊主。」
「はいはい、すいません。あまりに話を聞いていないように感じたもので。」
小憎らしいくらい整った笑顔を見せて毒を吐いた。
周りのものは毒を放つ姿も絵になる。と感心した、うっとりとした、魅了されてしまっている。
腹立たしいやつだ。
その仮面は、薄く脆い硝子美術のようなのだから。滑稽、といってもいい。
まあ、玄瑞が決めたことだ。文句は言わない。
「あっそう。」
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