03. 「狼男」さん、マジでイケメン

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03. 「狼男」さん、マジでイケメン

 憂子と「狼男」は帰り道を並んで歩いた。不審者は街灯に縄で縛り付けておいた。警察に連絡したので後で駆け付けてくれることだろう。  二人はお互いに一言も言葉を交わさなかった。不審者をお縄に掛けた後、「狼男」が自宅まで送ってやると言い出した。  彼もまた夜を歩く乙女を付け狙う不審者である可能性は高い。だが、憂子は断るということをしなかった。殺されるぐらいならに瓜二つなこの男の方がいいに決まっている。  とは言え、「狼男」は憂子に対して触るとか刃物を突き付けるとか、そのような不審行為をする気配がない。しかも、二人が歩いているのは人通りの多い住宅地の道路である。  「狼男」は憂子を見ることもなく、ずっと前方向に顔を向けたままだ。それはそれで寂しい気持ちだが、憂子の中で「狼男」に対する好感度が激増していた。  「狼男」さん、マジでイケメン。  「なあ、家はこの辺か?」  溶けそうな目で見つめられていたのに気付いたのか、「狼男」は怪訝な顔をした。我に返った憂子は慌てて首を振った。  「い、いえ、まだまだ先です!」  「狼男」はそうか、とだけ呟くと再び前を向いた。変な奴だと思われただろうか。推しにそっくりな男を目の前にして、変になるなと言う方が無理な注文だと言うのに。  「あ、あの」  「狼男」が振り向いた。  「お、お名前は?」  すると、「狼男」は首を傾げた。  「さっき出会ったばかりの男に、名前を聞くのは馴れ馴れしいんじゃないか?」  真っ当な意見を受けて、憂子の胸が落下した陶器のように粉々に砕けた。馴れ馴れしく接したつもりはないのだが、今の発言でDQNだと思われただろうか。  憂子が俯き加減に黙り込んでしまった。それを見てバツが悪いと思ったのか、「狼男」はしばらく言葉に迷った。  「ま、まあ。俺もお前にタメ口で口を聞いてるわけだ。馴れ馴れしいのはお互い様か」  憂子が顔を上げるなり、「狼男」は先ほどとは打って変わった柔らかい微笑みを見せた。憂子の胸に矢が立ったのは言うまでもない。  「俺はツミヒト。見ての通り、狼男だ。よろしくな」  「ツミヒト」は小刻みに動く耳を触りながら、白い牙を見せて笑った。  ツミヒトさん、ガチでイケメン。
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