3人が本棚に入れています
本棚に追加
「誰がみじめだ誰が」
原稿を読み終わった僕は思わず苦言を呈する。
本多さんが顔を上げた。
「どうだった? 宮澤くん的にはあり? なし?」
「なしですね」
僕は断言する。
「センシティブ過ぎますし、コンテストの求める方向性とは大幅に毛色が違う気がします」
「そっか。若い子がそういうなら、そうなのかもなあ」
本多さんはぽりぽりを頭をかき、業務に戻っていった。
僕は改めて、殺人鬼の小説を読み返す。
彼は明らかな悪意を持って、自分に危害を与えようとした相手である。本来ならば、怒ったり、恨んだりして然るべきだ。
しかし、どうにも僕はそうした気分になれなかった。
同じキーホルダーを持つ殺人鬼のことを、僕もまた全くの他人とは思えないのだった。
僕だって人生に自暴自棄になった日がある。僕は自らの頭を撫でた。彼の気持ちはわからないでもない。人を殺そうとは思わないけど、きっとその絶望の一ミリくらいはね。
「……健闘を祈るよ、戦友」
僕は彼の書いた「月夜の遭遇」にいいねした。
顔も名前も知らない殺人鬼へ、心からのエールを込めて。
最初のコメントを投稿しよう!