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閑話〜敢えなくなる人
家族でツーリングを楽しんだ翌週、久しぶりに祥子が遊びに来てくれた。
宿泊先の旅館で宏紀に会った話を聞かせた。
「嘘でしょう?そんな事あるの?」
「それが嘘じゃないのよ、駿介の策略かと思ったけど、よくよく考えたら田代の義母よ黒幕は。駿介は親孝行で皆を旅館に誘うって思ったのね」
「でも20年も経ってたら…じゃない?」
「昔の棘がね、刺さったままで…最初は痛かったんだけど、痛みに慣れて刺さってる事も気にならなくなって…そんな状態だったのかな。宏紀さんに会って話をしていたら何か落ちた気はしたわね」
「良かったじゃない?田代の義母さんに感謝しないと」
「感謝?う〜ん感謝?かしら」
話をしながら祥子が少し小さく見えた気がした。
「祥子、もしかして体調悪い?痩せた?」
「そうなの、ここのところ食欲なくって。時々背中がひどく痛くって。病院行こうと思ってるんだけど。何科に行ったらいいのかしらね?」
「食欲ないならひとまず内科じゃない?」
「二階堂にも病院行けって言われてるのよね」
「神がそう言うなら行かなきゃ!」
「まだ神って呼ぶのね」
二階堂は祥子の事実婚のパートナーで派遣会社を立ち上げた時にスタッフに誘ってくれた。
佳佑の会社で契約社員を探している事を知り、大手に勤めた経験があるならチャレンジしてみなよ!でさ、うちの会社のネームバリュー高めてきて!そう勧めてくれたのが彼だ。
彼が居なければ佳佑と再会してなかった。
嬉しさから私は彼を『神』と呼んでいた。
祥子は偶然でしょ?とけんもほろろなのだけど。
「じゃ病院行ってみようかな」
「そうよ、なんでもなければそれに越した事ないでしょ?」
そう話したのは5月の末のことだった。
梅雨が明ける頃、祥子が我が家に来てくれた。
二階堂も一緒だった。
ふたり一緒とは珍しい。
佳佑も含め4人でテーブルを囲った。
「菜々美、話しておきたい事があるの」
「なによ、改まって」
二階堂が俯いた。
「菜々美…私ね、ガンだったのよ」
「ガン?…」
「そう、膵臓ガン。ステージⅣだった」
「治るのよね?祥子…治るわよね?」
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