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「…今の医学では難しいな…あとは神頼み?」
祥子は淡々と余命宣告を受けたとも言った。
「だからね?菜々美。私もう少ししたらいなくなっちゃうの。浅野くんとずっと仲良くするのよ?ケンカしても仲裁も出来ないし、グチも聞いてあげられないわ」
「やだ…祥子…嫌よそんな事言わないで…」
佳佑はずっと菜々美の手を握って聞いていた。
「菜々美、悔しい思いをしてるのは宮内さんだよ。何か俺たちが出来ることはないの?」
「ありがとう浅野くん。後悔はない。良い人生だなって思ってる。病気は残念だけど、こればかりは仕方ないわ。仕事も辞めたのよ。
来週には入院するわ。転移してあちこち痛みばかり強くて、緩和ケア受けるの」
言葉どおり痛みが強いのだろう。話している間も時々顔を歪めていた。
その様子を見て二階堂が、そろそろ体力の限界だと言い、抱き抱え車に乗せ連れ帰った。
祥子の入院先へは週に一度だけ顔を出した。
たった一週間なのに見るたび祥子は痩せていく。
達観している様に見えた祥子が一度「奇跡は起きないわね、劇的な回復とか」と呟いた。
「さぁ?これからかもよ」今思えば陳腐な返事だった。
ベッドサイドにスマホは置いてあるものの今はもう持つことすら難しい。
ずっと付き添っているおばさまやお姉さんに挨拶だけして帰ることも多くなった。
11月に入り、庭の木にイルミネーションの飾り付けをしたいと佳佑に相談していた。
じゃあ飾りも置こうか?諒介が喜ぶぞ。
そうね、どんなものがあるのかしら…
スマホを手にした時、電話が鳴った。
画面には祥子の名があった。
すでにスマホを持てなかった祥子が自分で電話をかけてくることは…ない。
逝った、のね…
深呼吸をして電話に出ると祥子のお母さんだった。
「菜々美ちゃん?祥子が、旅立ったわ。今家に連れて帰ったところなの。顔を見に来てくれる?」
「はい…おばさま、すぐに伺いますね…」
「宮内さん、亡くなられたのか?」
「佳佑…祥子に会いに行きたい。でも自分で運転できそうにない…連れて行ってくれる?」
佳佑は黙って身支度すると私を車に乗せ祥子の実家へ向かってくれた
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