エピローグ〜還暦のふたり

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エピローグ〜還暦のふたり

10月、私は誕生日を迎えると60歳になる。 還暦だ 隣には変わらず優しい夫。佳佑がいる。 佳佑は5月生まれで一足先に60代に突入した。 役員定年よりずっと早くリタイアし、バイクと車の手入れをし、時折庭で燻製を作り、ハンモックでお昼寝をし、のんびりと生活を楽しんでいる。 長男の駿介、妻の紗弥加さんと一人息子の諒介の3人家族はいつも仲良く賑やかな家族だ。 長女の佑菜は昨年大学を卒業した。 一級建築士の道を目指し家を出て、設計事務所に勤めている。 佑菜のひとり立ちには一悶着あった。 駿介の時とは違い、佳佑が娘の一人暮らしを案じ意を唱えた。 佑菜に「パパ、お兄ちゃんの時と言ってること違わない?」と責められ 駿介に「親父、佑菜は俺よりしっかりしてるよ?」と説得された。 結局皆に説き伏せられ渋々頷いた。 佳佑も娘には甘かった、手元に置いて然るべき時に家から嫁がせたいと思っていたらしい。 佑菜の引越しの日は現役時代厳しく冷静なアイスマンと謳われた佳佑も娘にはかた無し。ウロウロと佑菜を手伝う姿を窓から苦笑し眺めた。 誕生日。今年は週末だった。子供達が還暦のお祝いに集まってくれた。 佑菜は建築士の先輩だという彼を伴い現れた。 すでに駿介には紹介していたようで味方につけている。 佳佑は…少し寂しそう。 佳佑の誕生日にも皆集まったが「還暦のお祝いは母さんの誕生日に一緒にやろう!」と駿介が仕切った。 オーダーでさ、時間がかかったんだと言いながら佳佑には佑菜が、私には駿介からそれぞれに大きな箱を渡された。 佑菜の彼からはオレンジのバラを頂いた。 10月の誕生花?素敵…ありがとうございますとお礼を言うと佑菜と顔を見合わせホッとしている。 緊張してたのね。 さて、と大きな箱の包装紙を開ける。 還暦といえば赤いちゃんちゃんこ? それをオーダーしたってこと?
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