11人が本棚に入れています
本棚に追加
「はわわわわ。す……すみません。鼻緒が切れていたことを失念していまして」
彼女は草履を見てしょんぼりしていた。
僕は痛みと柔らかさにサンドイッチされつつ、ポケットからスマホを取り出した。
「それ、なんとかして直してみるよ」
ハンカチがポケットに入っているのを思い出し、僕はネットで『鼻緒 応急処置 ハンカチ』と検索した。そして検索結果をたよりに、僕はハンカチと5円玉を使って鼻緒を応急処置した。
「重ね重ねありがとうございます」
応急処置をしただけで、彼女はヘドバンするように何度も礼をした。
周りを見渡すと通行人の注目を集めていたことに気づき、居たたまれない気持ちになる。そういったこともあり、僕は彼女をちゃんとした履物店へと案内することにした。
「まだ安心するのは早いよ。次はちゃんとした所で修理するか、新しいものを買ったりしないと」
「え、い、いえ。そこまでなさらずとも、後は私1人でなんとかしますから」
「気にしないでくれ。困っている人がいたら助ける。それは当たり前のことなんだからさ」
申し訳なさそうにしている彼女をよそに、僕はスマホでバイト先に報告をした。そしてなんとかお許しをもらった後、僕はスマホで近くの履物店を検索し、そこまでのルートを割り出した。
今から向かってもバイト先での結末は同じだから、ここは彼女が1人で行動できるまで付き添うこととした。
他の人を幸せになってほしいと願う気持ち。
他の人を幸せにするために力を使うべしという教え。
母から僕へと受け継がれたこれらの意志はどんなことがあろうが、必ず守り続けなければならないのだ。
最初のコメントを投稿しよう!