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教室に着くなり、僕はバレないように元カノをチラ見する。
いつもと変わらず、ツインテールが似合っている。
「今日は、18:00まで練習だよね?」
「ああ、その通りだ。せめて1時間短くしてくれれば、空音美ちゃんとゆっくりデート出来るのに……ね?」
隣にいる眼鏡男子と仲睦まじく談笑している光景もゴールデンウィーク前と変わっていない。
眼鏡男子の名前は柊木惹雄。茶髪が特徴的な優男で、知的男子というイメージを醸し出している。そして、空音美とともに、僕のことも擁護してくれる数少ないクラスメイトでもある。
けれど、僕は彼に対して複雑な心情を抱いている。なぜなら、彼こそが空音美の今カレだからだ。
今カレと元カノに守られる元カレ……。ああ、なんてみっともないんだ……。
僕が現状に気落ちしている時、空音美が僕のもとにやって来た。僕が到着したことを察したためだ。
「お、おはよう。實善くん」
「あ……ああ。おはよう」
笑顔で挨拶してくる空音美に、僕はぎこちない挨拶で返した。もう『ユキ』の欠片もない事実がただ、切ない。
その後、今カレも空音美についてきて、僕に話しかけてくる。
「おはよう、實善くん。クラスは馴染みそうかい?」
今カレは穏やかに僕の安否を尋ねてくる。
この誰にでも分け隔てなく接する性格が空音美を惹きつけたのだと僕は知っている――元カレを空音美の頭から追い払うほどに。
「ああ。そろそろ僕の左眼には慣れてくる頃だし、平気……だよ」
「そう。とにかく少しでも何かあったら俺たちに言うんだぞ?」
優しくて残酷な2人との会話はここで終わる。
既に消え入りそうになりながら机に突っ伏していると、クラスメイトの男子たちがある話題に熱中していることに気づく。
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