ずるいよ、五十嵐くん。

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 ――私と真逆の人かな。  スマホのロック画面に表示されたメッセージを見て、汗を拭く手が止まった。  ロッカールームのガヤガヤとした喧騒のなか、ひとり静止して身体を熱くさせる。  ……もしかして、俺、ワンチャンある? 「なんかいい事あった?」  いきなり背後から話しかけられ、うわぁっ! と思わず声を上げてしまう。同じサッカー部の原田が、ニヤニヤとしてこちらを伺ってきていた。  慌ててスマホをしまうと、分かりやすく顔を背けてしまう。 「いや、別に何もないけど」 「めっちゃキモい顔してんぞ」 「キモくないし」  既にユニフォームから制服に着替え終わっていた俺は、はよ着替えろ、と原田に背を向ける。そんな俺にお構いなく、原田は言葉を投げかけてくる。 「好きな人でも出来た?」  ドキリ、と心臓が跳ねる。  頭のなかに浮かんでくるのは、もちろん桃原の顔。  可愛い、とにかく可愛い桃原。  俺が話しかけると、いつも目を見開いて戸惑う顔。でも、楽しそうにくしゃっと笑ってくれる顔。ちょっと思わせぶりなこと言ってみたら、まんまと赤面しちゃう顔。  家で飼ってる犬より可愛い説、本当にある。  ……もっと色んな桃原を知りたい。  こんな風に思ったのは、初めてだ。  最初は、いつも教室の端っこで本を読んでる大人しい女子。それくらいの印象だった。けど、日直でもないのに、いつも授業が終わったら黒板消してたり、床に落ちてるゴミを拾ってたり、桃原が日直だった次の日は教室がピッカピカになってたり……。そんなことを苦とも思わず、誰に自慢するでもなく自然にやってのける桃原を、いつの間にか目で追うようになっていた。  さらさらの黒髪も、小動物みたいにくりっとしたつぶらな瞳も、ぜんぶ好きだ。  いつも穏やかで、怒ってるところなんて見たことがないところも。……まぁ、あんまり誰かと喋ってたりしないんだけど。  付き合ったりしたら、きっともっと健気なんだろうなぁ。  あと、これは偏見だけど、桃原は絶対に押しに弱いタイプだ。  俺のことどう思ってるかは分からないけど、その気にさせることは出来るんじゃないかって思う。  ……関わりがなくて自信ないから、告白なんてまだ出来ないけど。  もっと、もっと俺のこといっぱい考えるようになってくれたらいいのに。  そう願いながら、今日も俺は、桃原にメッセージを送り続ける。本当の気持ちは言えないけど、伝わったらいいな、なんて淡い期待を抱きながら。
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