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「桃原さ~ん、ごめん! 私、今日彼氏と約束あって~」
「あっ、うん! いいよ、あとはやっとくね」
私が言うと、再び「ありがと~!」と満面の笑みで両手を握られる。
前もこんなことあったし、今日も私一人で日直の仕事するつもりだったよ。なんて口が裂けても言えないから、私は何も気にしていないようにニコニコと笑みを浮かべる。
「今日、桃原さんと日直でよかったぁ~。じゃあ、よろしくねっ」
そう言うと、さっさと帰っていってしまった。
ひとり教室に取り残された私は、淡々と黒板を消し始める。
校庭からは、ボールが蹴り上げられる音と、大きな笑い声。どこからか、トランペットの明るい音が聞こえてくる。
皆、青春してるなぁ。
教室の隅々まで掃除し終えた私は、ゴミ袋を持って教室の鍵を閉める。鍵を職員室に返しに行って、ゴミ袋を一階のゴミ捨て場に捨てた後、すぐに図書室へ向かった。
西陽が差す図書室で、ひとり静かに本を読む時間が、本当に至福だ。
余計なことを考えず読書に没頭していると、ブブ、とスマホが振動した。
見ると、メッセージがきていた。同じクラスの五十嵐くんだ。
――桃原って、彼氏いる?
つい本を閉じて机に置き、返信を打つ。
……何で、そんなこと聞くんだろう? って考えるのは自意識過剰かな。
五十嵐くんとは、最近仲良くなった。明るくて、友達も多くて、私とは正反対の人。こんな私にもよく話しかけてくれたりする、優しい人。あとサッカー部。それくらいしか、彼のことは知らない。
柔らかそうな自然な茶色の髪の毛も、大きな目にはっきりとした輪郭も、私から見たら眩しすぎて……いつも、あんまり直視できない。
――いないよ。いたら、いつも図書室こもってたりしないよ。笑
メッセージを送ると、すぐに既読がつく。
――よかった。
よ、よかった!? よかったって何が……!?
思わず両手で顔を覆う。
あぁ、もう。どうしてこんな数文字に一々反応しちゃうんだろう?
熱くなった顔を手でパタパタと仰いでいると、またメッセージがくる。
――じゃあ、好きなタイプとかは?
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