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    ◇  ◇  ◇ 「ただいまぁ。あー、いい匂い! おなか空いたあ」 「おお、月穂おかえり。今日のメインはなんと! 月穂の好きなささみのチーズ挟みカツです!」  食事当番の俺が大袈裟に告げるのに、まだまだ新婚で「妻」とも「奥さん」とも呼び慣れない彼女は破顔した。 「うわ、嬉し〜! 瞬ちゃん大好きぃ! あ、野菜あるよね?」  月穂の笑顔と弾んだ声だけで、「ああ、面倒だけどこれにして良かった」と思える。 「当然! ブロッコリーメインの温サラダだ! ブロッコリーとにんじんが安かったんだよ、あの駅前通の一本裏の八百屋」 「あの店いいよね〜。品揃えは仕入れ次第、って感じだけど、あるものは全部質がいいっていうか」  月穂も料理は結構できる方だ。  食材の見極めも、俺もそこまで大したことないけどまあ互いに安心して買い物頼めるくらい。 「ささみって手間掛かるのにごめんねえ。でも瞬ちゃんの料理ホントに美味しい! あ、このサラダもいいね。あたしが作るより絶対美味しいよ」 「和食は月穂のが段違いで美味いだろ。得意料理違う方がいいじゃん?」  俺はさ、「ささみは下拵えがちょっと面倒」とか、そういうのが通じるだけで報われるんだよ。  きっと月穂もそうなんじゃないかな。  煮物の野菜の面取りとかキッチリしてて、俺も母もそこまでやってなかったからそう言ったら逆に感動してたもんな。「そこに気づいてくれるのがもうすごい」ってさ。  おなかが空くと、なんか気が滅入るじゃん? あれ、俺だけ?  仕事で疲れても、人間関係やなんかでうぜえなってことがあっても、美味いもの食べて腹が膨れたら「……とりあえず今はいっか」って思える。  まあ単純てことなんだろうな。だけど俺はそれでいいんだ。  ──そこで一緒に「おなか空いたね」「なんか作ろうか」「美味しいね」って言い合える相手がいるのが、本当に幸せなんだよ。                             ~END~
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