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「私からの見立てを、お伝えしてもいいでしょうか?」
「お願いします」
「ヴォルハイム太公アルトゥルは、聞きしに勝る堅物だ。私の調べでは、公妾などはおらず、決まった愛人もいらっしゃらないようです。軽い恋愛沙汰程度は分かりかねますが」
「はい」
綺麗事だけでは成り立たない世界、他国の宮廷に、私は嫁ぐことになるのですから。最後に付け加えた言葉に、その現実を私は感じ取っていました。
「この婚姻の話が出た際です。公爵殿は、一つ、条件を付けられました。あなたもご承知の通りでしょう」
「ええ」
私は頷きます。
『二人は婚約するが、正式な結婚の合意は、ベアトリクスが十六歳になるまで持ち越される。その後、結婚当事者であるアルトゥルとベアトリクス、二者の合意を以て婚姻の成立とする』
そのように、この婚姻では取り決めがなされていました。
「お父様とお母様は、確かに大恋愛でした。しかし、あれだけの武勇、名声、才覚、智慧を持たれて、またご自分らのことはご自分らお決めになったお二人であっても、それ以降は政治遊戯の盤上に自らを、そしてお身内を置かざるを得なかった。それだけ微妙な力の均衡の上で、この国も、国家間の関係も成り立っているということです」
「はい」
「婚姻の取り決めは苦肉の策とも言えます。ですが、一番大事なことでもあります。人は、自身の意志による決定であれば、その結果を大事にする。理由が何であっても」
「はい。……でも」
頷いてから、私は首を傾げます。
「でも、とは?」
「ちょうど、今おっしゃったようなことです。理由が何であっても、それは、その理由が愛ではないということではないでしょうか。愛ゆえではない結婚をしても、許されるのでしょうか、人は」
おじさまは、少し考え込みます。
「許される、の定義によりますが。しかし、許されないはずだと責め立てるような人もいないのではないでしょうか」
「だってアルトゥル様は、私を愛してはおられないでしょう? 十三も年の離れた子供を愛することなど、できないのではないでしょうか」
おじさまは、そこで首を振ります。
「そのご意見にはまあ、同意しかねますね。アルトゥル様が今のあなた相手にことさらに恋愛ごっこに走らないのは、あなたがこれから成される決定を尊重しているから、そんな風に考えることもできます。いかがでしょうか?」
「うーん、どうでしょう……」
私は答えを出しかねていました。そんな私に、エックハルトおじさまは笑うのでした。
「あなただって、アルトゥル様のことは決して憎からず思っているのでしょう。男振りが良いとか、麗しいとか、そう仰っているのですから」
「…………!」
図星を突かれた気がして、私は黙り込みます。
「恋の始まりなど、それで十分です。問題はその後だ。愛情を、また尊敬を保つことができるか。お父様もお母様も、あなたをこの歳まで、誰もが尊敬して余りある女性となるよう、教育には骨折って来られました」
「……ええ」
私は頷きます。
「そして、この決定が意味を持つのです。強く賢く、判断力を備えたあなたがご自身で、この婚姻を選ぶこと。周囲に決められたという形ではなく。だからヴォルハイムは、あなたを無下にすることはできない」
それからエックハルトおじさまは、私の足元に跪くのです。
「ベアトリクス様。どうか、賢く、そして強く。そのようにあってください。あなたにはそれができると、私も皆も、そう考えています。それでも、どうしても嫌だったら。耐えられないことがあったら。今も、それからこの先も」
そうしておじさまは、その言葉を口にするのでした。
「全てぶっ壊して、思いのままに生きてください。どうか」
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