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エックハルトおじさまと言葉を交わしたのは、それが最後になりました。
その後私は婚姻の契約に署名し、それからヴォルハイム太公の元に嫁いで、華やかな結婚式が執り行われました。それからもいろいろと大変なことはあったのですが、それを語るのは、また別の機会になると思っています。
おじさまは結婚式には参加されませんでした。まだ体調が思わしくないからとのことでした。しばらくは別れ別れになってしまいますが、それでもまたお話をする機会はあると、そのように私は考えていたのです。
それでも、それは叶いませんでした。
それから三年後、エックハルトおじさまは一人で街に出た際、馬車に轢かれそうになった子供を救おうとして身を投げ出し、車輪の下敷きになってしまったのです。医者が駆けつけた時には手の施しようがなく、そのまま見送ったと、そのように私は聞いております。
だから、私はおじさまに、聞きそびれてしまったのです。
おじさまは私を、誰と見間違えたのか。
どこにもいなくなってしまったというその人は、一体誰だったのか。
(了)
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