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「ひっ!」
奈穂が小さく悲鳴を上げて一浩も目を開けた。
そして黒板にその視線が釘付けになる。
誰もなにも言えなかった。
ただ黒板に勝手にかかれていく文字から目を離すことができなかった。
天野千秋。
黒板にそう書き記した後、チョークは突然力を失ったようにその場に落ちて折れてしまった。
その名前が刻まれてもまだ誰もなにも言わなかった。
その名前はよく知っている。
聞き馴染みもあったし、本人のことも知っている。
それなのに、誰も言葉を発することができなかった。
「こ、これって……?」
初めに引きつった声を出したのは珠美だった。
珠美は真っ青になり、今にも崩れ落ちてしまいそうだ。
「わからない。どういうこと?」
「きっとマジックだ。手品だよ」
奈穂と豊が立て続けに言った。
手品。
でも、じゃあそれを誰がやったのか?
互いに目を見交わせては左右に首を振る。
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