20人が本棚に入れています
本棚に追加
奈穂はもうなにも言えなかった。
なにかを言っても珠美にはきっと聞こえない。
ただ、珠美がつらい経験をしてきて、それが心の中にヘドロのように蓄積していたのであろうということは、理解できた。
「だから許してよ千秋! あんたにだってどうせ私の気持ちはわからないんだから!」
誰もいない空間へそう叫んだときだった。
教卓の上のナイフがカタカタと揺れた。
珠美がハッと息を飲んでそちらへ視線を向ける。
その目は怯えて揺れていた。
「いや……それだけは嫌!」
ナイフが珠美へ飛びかかってくる前に珠美は教室後方へ逃げていた。
机の下に身を隠す。
ナイフはそれに釣られるようにして珠美の元へ飛んでいった。
ビュンッと風音がする速さであっという間に珠美に追いついた。
「いやぁ!!」
珠美はナイフを振り払おうとがむしゃらに両手を振り回した。
その右手にナイフがベッタリと張り付いてしまう。
最初のコメントを投稿しよう!