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「ホントに一颯は賢い子ね」 五歳の一颯は、幼児向けのキャラクターが描いてあるテキストをたった一時間ほどで一冊終わらせてしまった。 (つまんねー) 心の中で呟く。もっと難しい問題だって出来るのに。4個のリンゴを二人で分けるとひとり何個でしょう?だって。こんなの分からない奴いんのかな? 「ママ、もう無いの?」 上目遣いに尋ねると「あら、じゃあ本屋さんに行きましょうね」と母親は答えた。 いつもの事だが、一颯は心の中でヤッタ!と叫ぶ。 一颯は本屋が好きだった。沢山本が読めるのも嬉しかったし、何より本屋のアルバイトのお兄さんが好きだったのだ。 この頃から薄々、自分が女の子より男が好きだという意識はあった。 一颯が本屋に行くと、お兄さんは必ず頭を撫でてくれて「可愛いね」と言ってくれた。 それだけで、妙に興奮していたのを思い出す。 __ 「……一颯、一颯?聞いてんの?」 「え?あ、ごめん、聞いてなかった」 「またかよ」 目の前で短髪をシルバーに染めた遠藤綉(エンドウシュウ)がムッとしている。 「で?何?」 「だからあ!転校生!来るんだって」 「へえ」 「イケメンらしくって、女子達騒いでる」 「え、イケメン?」 一颯は、ドキリと胸をときめかせる。 ゲイであることは、もちろん誰にも話していないけれど、イケメンという言葉にはどうしたって反応してしまう。 「まあ、一颯よりは落ちるだろうけどな」 綉はそう言って笑った。 「何言ってんだよ、俺のどこが」 仕方なく謙遜すると綉に後ろから頭を抱え込まれた。 「テメー、学校一のモテ男で金持ちだろうが!あんまり言うと友達やめるぞ!」 「あー、分かった、分かった!俺が悪かった!昼メシ奢るから」 綉の手をパチパチ叩いていると、女子達がきゃあきゃあ騒ぎ出した。 「ほら、今、廊下通ってる奴!」 綉も騒ぎ出した。 一颯も釣られてチラリと廊下を見ると 嫌でも目立つスラリとした男が不意にこちらを見た。 (うわ、カッケー) モデルと見まごう程のスタイル。端正な顔立ち。 そいつは担任に連れられて、静かに教室に入ってきた。
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