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気がついた時には、綉と一緒に電車の座席で揺られていた。
あの後、綉に何か言われてそのままフラフラと歩いたことしか覚えていない。
「ま、言いたくなかったらいいけどさ」
綉が小声で言った。
「その……恋愛関係だったのか?陸と」
「……うん。そうだよ」
これ以上、綉に嘘をつくことは出来なかった。そして、これ以上迷惑もかけられない。
「そっか……それであんなに動揺してたんだな」
綉は、納得したように言った。
それ以上特に何も聞いてこない綉がありがたかった。
「なんか、大変だったみたいだな、陸も」
「そうなのか?」
「うん。なんか母親がウツみたいになっちゃって、弟達と実家に帰ったんだって。そいで、今は陸がこっちで独り暮らししてホストやって、死んだ親父さんの借金返し続けてるって。姉ちゃんが他のホストに聞いたらしいけど」
「そっか……」
住む世界が違うのは、本当なのかもしれない。一颯には、そんな強く生きる力は無い。
辛いのは、自分だけだと勘違いしていたけれど、陸の方がよっぽど辛かったのかもしれない。
「ホストってやっぱ儲かんのかな?」
綉が不意に言った。
「さあ、どうなんだろ。でも陸ならどんなことしてでも金稼ぐんだろうな」
一颯は、そんな陸に自分は憧れていたのかもしれない、と思った。
本当に陸の言う通りだ。どうして会いに行ったりしたんだろう。
自分勝手で情けなくなり、一颯は唇を噛んだ。
やはり住む世界が違っていたのかもしれない。
たまたまお互いが迷い道に入った時に、偶然すれ違っただけなのかもしれない。
そんな風に考えると、少し楽になれた。
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