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8
卒業式が済み、一颯達は、高校生でも
大学生でもない中途半端な期間に入った。
綉とあと一人、竹内という元クラスメイトと卒業旅行に行こうと言うことになり、打ち合わせの為に水野の店に向かっていた。
陸と再会したあの日。
綉と別れてから、水野の店に足が向かった。
自分勝手なことは分かっていたけれど、いつも無条件に優しさをくれる水野に癒されたかった。
「一颯くん!」
店の扉を開けると、水野はすぐに近づいてきて、ちょうど店内に誰も居なかったので、すぐに店を『CLOSE』してくれた。
ほんの1週間ほど会わなかっただけなのに、水野は「久しぶりですね」と言ってハグをしてくれた。
「うん……」
思ったより、沈んだ声が出てしまった。
水野は、心配そうに一颯の肩を抱き、いつものカウンターではなく、背もたれのソファ席に座らせた。
「何かあった?」
水野は、暖かいカフェオレを入れて一颯の前に置いてくれた。
「陸に……会ってきた」
一瞬、水野が言葉を失ったのが分かった。自分でも酷いことを言っているのが分かる。
「そう……ですか。元気でしたか?」
「ホストになってた……」
「そうなんですね。家族の為ですね、きっと」
水野は、陸を庇うように言った。
「1回この店の近くまで来たんだって。水野さんと手を繋いでるとこ見られてたみたい。幸せなのに、なんで会いに来たんだって言われた。笑いに来たのかって」
水野を傷つけることは分かっていたが、黙っていることは出来なかった。
水野は、黙ってゆっくりと一颯の背中をさすってくれた。
「大丈夫。本心なんかじゃないから」
優しく言われてまた涙が出てきた。
「なんで?水野さんは、なんでそんなに俺なんかに優しく……」
泣きながらそう言うと「何でだろうね」と言って、水野は一颯の肩を抱きしめた。
「一颯くんが傷つくところを見たくないのかもしれません」
「水野さん……。抱いて欲しい」
一颯が、そう言って水野を見ると、水野は少し目を見開いて一颯を見た。
「忘れさせてくれるって言っただろ」
「そうですね……」
水野は、そう言って一颯をソファにそっと押し倒した。
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