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「やっぱさー、USJが良くね?」
綉に言われてハッとして顔を上げる。
あの日以来、水野は、少し一颯と物理的に距離を置くようになっていた。
必要以上に触れては来ない。
それを少し寂しく感じながら、背中で水野が働いているのを意識した。
「あ、そうだよな、関西いいよなあー!京都とかも行く?」
竹内が同意する。
「うん、いいよ」
一颯も同意して、スマホで『関西 観光』と検索した。
三人で検索していると一颯のスマホに通知が来た。
『会えないか?話がある。陸』
「え?!」
一颯は、驚いて椅子から思わず立ち上がった。
「なんなんだよ、うるせーぞ、一颯」
綉に怪訝な声で言われ「あ、ごめん、ごめん」とまた席に着いた。
「一颯ってさあ、マジで彼女いねえの?」
不意に竹内が聞いてきた。
綉は黙ってスマホを見ている。
「うん、いない」
「じゃあさ、関西でナンパもあり?一颯だったら、どんな女でも付いて来るんじゃね?オレ、旅行中に童貞捨てたい」
竹内が両手を擦り合わせて一颯を拝んで来た。
「あー、うん、そうだな」
曖昧に返事をしながら、頭の中は陸のことでいっぱいになっていた。
今更、話ってなんだろう。金でも貸してくれって言われるんだろうか?
それでもいい。陸の役に立てるなら、少しくらい金を貸してやってもいい。
陸にとっては、金持ちってことくらいしか自分の存在はないのだ。
一颯は自虐的にそんな風に考えた。
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