8

4/5
前へ
/47ページ
次へ
__ 待ち合わせの喫茶店に行くと、陸はもう既に席についていて、一颯に手をあげて合図してきた。 この前会った時は、ホスト仕様で随分と大人びて見えたが、今日はパーカーにカーゴパンツで、普通の格好いい大学生という感じだ。 「悪いな、呼び出して」 「いや、いいよ」 少しの沈黙があり、二人でメニューを見、それぞれブレンドとカフェオレを注文した。 「で……話って?」 一颯は、鞄の中に五十万の現金を入れていた。 子供の頃から貯めていた預金を、さっき下ろしてきたばかりだ。 陸になら貸してもいい。いや、あげたっていい。 「こないだ、水野さんが店に来た」 「え……?なんで?」 全く思ってもいなかった話に、一颯は少し混乱した。 もしかして、喧嘩にでもなったのだろうか? 「あの人、ホントにカタギの人間か?コワすぎ」 そう言って、陸は少し笑った。 一颯は、どういうことか分からず「そうなのか?」とマヌケな返答をした。 「一颯をこれ以上泣かしたら殺すって言われたぞ」 「殺すって!物騒だな」 一颯は、そこで初めて可笑しくなって笑った。 「なんか……色々誤解してたみたいで悪かった」 素直に謝られて、一颯は何と言っていいのか分からなくなった。水野と付き合っていたことは事実だし、誤解なのかどうか分からない。 水野が陸に何を言ったのかも分からなかった。 けれど、水野が気を利かせて色々言ってくれたのは事実だろう。 「で、さ……」 陸が言いにくそうに小声になった。 「俺、ずっと思ってたんだけど。一颯って俺のことどう思ってんの?」 「え?どうって……」 そりゃあ好きだよ、と言いかけて言葉に詰まる。 そういえば好きだと言ったことはないかもしれない。 「俺は、好きだって言ったけどさ」 そう言ってじっと見つめられた。 「そんなの……好きじゃなかったら、あんなことしねえだろ」 あんなこと、と言った途端、陸と二人で泊まったビジネスホテルの部屋が鮮明に浮かんできた。 恥ずかしすぎて、顔が熱くなる。 「あんなこと、ね」 陸は、そう言ってニヤニヤしている。 「なんだよ。文句あんのか」 「文句はないよ。けど、もっとちゃんと一颯の気持ちが知りたい」 陸は、そう言ってテーブルの上で一颯の手にひと回り大きな自分の手を重ねた。
/47ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加