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待ち合わせの喫茶店に行くと、陸はもう既に席についていて、一颯に手をあげて合図してきた。
この前会った時は、ホスト仕様で随分と大人びて見えたが、今日はパーカーにカーゴパンツで、普通の格好いい大学生という感じだ。
「悪いな、呼び出して」
「いや、いいよ」
少しの沈黙があり、二人でメニューを見、それぞれブレンドとカフェオレを注文した。
「で……話って?」
一颯は、鞄の中に五十万の現金を入れていた。
子供の頃から貯めていた預金を、さっき下ろしてきたばかりだ。
陸になら貸してもいい。いや、あげたっていい。
「こないだ、水野さんが店に来た」
「え……?なんで?」
全く思ってもいなかった話に、一颯は少し混乱した。
もしかして、喧嘩にでもなったのだろうか?
「あの人、ホントにカタギの人間か?コワすぎ」
そう言って、陸は少し笑った。
一颯は、どういうことか分からず「そうなのか?」とマヌケな返答をした。
「一颯をこれ以上泣かしたら殺すって言われたぞ」
「殺すって!物騒だな」
一颯は、そこで初めて可笑しくなって笑った。
「なんか……色々誤解してたみたいで悪かった」
素直に謝られて、一颯は何と言っていいのか分からなくなった。水野と付き合っていたことは事実だし、誤解なのかどうか分からない。
水野が陸に何を言ったのかも分からなかった。
けれど、水野が気を利かせて色々言ってくれたのは事実だろう。
「で、さ……」
陸が言いにくそうに小声になった。
「俺、ずっと思ってたんだけど。一颯って俺のことどう思ってんの?」
「え?どうって……」
そりゃあ好きだよ、と言いかけて言葉に詰まる。
そういえば好きだと言ったことはないかもしれない。
「俺は、好きだって言ったけどさ」
そう言ってじっと見つめられた。
「そんなの……好きじゃなかったら、あんなことしねえだろ」
あんなこと、と言った途端、陸と二人で泊まったビジネスホテルの部屋が鮮明に浮かんできた。
恥ずかしすぎて、顔が熱くなる。
「あんなこと、ね」
陸は、そう言ってニヤニヤしている。
「なんだよ。文句あんのか」
「文句はないよ。けど、もっとちゃんと一颯の気持ちが知りたい」
陸は、そう言ってテーブルの上で一颯の手にひと回り大きな自分の手を重ねた。
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