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「あ、あのさ」
一颯は、恥ずかしさを隠すように手を引き、鞄を開けて封筒を取り出し陸の前に置いた。
「これ使ってくれないか?少しだけど、親父さんの借金の足しに」
「え?」
陸は、驚いてそれを見つめている。
「俺、バイトとかしたことないから、子供ん時からのお年玉とか店手伝ったりとかして貯めた金なんだ。これだけしかなくて悪いけど」
一颯がそう言うと陸の目にみるみる涙が溜まってきた。
「一颯、お前って……ほんとお人好しのバカだな……」
陸は泣きながら笑っている。
「ありがとな、でもこれは受け取れない。気持ちだけ貰っとく」
陸は、そう言って封筒を一颯に返した。
「やっぱり少ないか……」
一颯が項垂れると「ちげえよ、バカ」
と陸が一颯の頭を小突いた。
「そんな大切な金、使えないって言ってんだよ。まさかこの前、俺が金持ちだから好きだったって言ったの信じてる訳じゃないよな?」
「あー、うん、ちょっとそう思ってた」
「まったく……。自分の魅力ちょっとは気付けよ。俺もだけど、水野さんだって、お前に夢中だろ?金とか関係ねえから!」
陸に言われて一颯はまた恥ずかしくなった。
「そんなの分かんねえよ、自分では。陸こそホストやってモテモテなんだろ?」
「まあな、それは事実」
陸が自慢げに言って二人で顔を見合わせて笑った。
ずっとこうやって陸と笑い合いたかった。
一颯は、心からホッとしていた。
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