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数日後。
体育の授業で50m走をすることになった。
一颯が着替えて校庭に出ると、陸が前を歩くのが見えた。
ただのジャージなのにいちいち決まっていて、なんだかムカついてしまう。
案の定、ジャージ姿を女子達に褒められている。
ついこの間まで、一颯にまとわりついてきていた女子達が、陸に夢中になっていて、一颯は嫉妬とプライドでイライラしてしまった。
(なんなんだよ、アイツ。嬉しそうに笑いやがって)
「なーに、イラついてんの?一颯」
ニヤニヤ笑いながら、綉が肩を組んできた。
「別にイラついてなんかねーよ」
ムッとして答えると「一颯はすーぐ顔に出るからなあ。人気がアイツに移って妬いてんだろ」と綉はゲラゲラ笑っている。
「うるせー!」
綉の銀髪をぐしゃぐしゃに乱す。
「うわー!やめてくれ!」と綉は抵抗している。
「楽しそうだな」
二人でふざけていると後ろから声をかけられた。
見ると陸が立っていた。午前中の光がまるで後光のように陸を輝かせていて、眩しさに思わず目を細めた。
「俺も入れてくれよ」
「おー!いいよ!」
綉は、嬉しそうに言うと陸の肩を少し背伸びして抱く。
「ほら、一颯も」
来い来い、と手招きされ「俺はいいよ」と二人から離れた。
あまり陸に近づくと身体が反応してしまう。
ジャージの時に反応するとヤバい。
一颯は、急いで集合場所に向かった。
出席番号は、陸が一番、一颯が二番。
二人で並んで座っていると、陸が耳元で「お前、色々手ぇ抜いてんだって?」と聞いてきた。
「は?」
綉の奴、余計なこと言いやがって、と後ろを睨んだが、綉は隣の女子にちょっかいを出してふざけている。
中学の頃から、親や教師の期待に疲れ、常に少し手を抜いて2番を目指すようになっていた。綉は小学校からの友達で、それを知っている。
「俺と走るからには本気出せよ」
「な、なんでだよ」
「いいから本気で走れ。本気で走って俺に勝ってみろ」
「嫌だね」
有無を言わさない陸の言い方にイラついて言い返す。
「勝つ自信がないのか」
フッと笑われて、一颯は更にイラついた。
「んなわけねえだろ?勝つに決まってる」
ここのところ、本気で走っていなかったけれど、本気を出せば誰にも負ける気はしない。
「ふうん。じゃあ俺が勝ったらキスするからな」
陸がニヤリと笑って言った。
「へ?」
なんでキス……と言いかけた途端、体育教師が位置に着くよう指示をしてきた。
(勝てばいいんだろ、勝てば!)
横に並びながら、前を真っ直ぐ見据える。
女子達が二人に声援を送ってくる。
「よーい」
ピー!と笛が鳴り、一颯は土を蹴って走り出した。
風を切ってグングン進む。
思い切り走るのが久しぶりすぎて、足がつりそうだった。
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