海の宮殿

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海の宮殿

 ミレナは目を覚ました。  さっきまで見た夢がまだ鮮明に思い出される。  海の底、このタレハ宮殿から、海を登り、水を掻き分け地上に浮かび上がるのだ。  地上には『空気』と『陸』があるという。家庭教師のサロン先生が話してくれた。ああ、一体どんな感じがするのだろう。  そして『人間』がいる。彼らは海に潜ることはできないけれど、舟、を使って海の上に出ることができるという。そして『人間』には知恵があり、言葉を使って私たちと同じようにしゃべることができるのだ。  地上に生きる人たちと交流できたらどんなに良いだろう、と心が躍る。  もう少しだ。とミレナは思いつつ、緑色と紫色の海藻で編まれたベッドから飛び起きた。  明後日はミレナの成人式。少女ではなく女性として一人前と認められる日だ。お父様やお母さまの目の届かないところへも自由に泳いでいける資格を手に入れられる。海面に浮かび、陸を見ることができるのだ。  ミレナの一族は食事をとらない。口はあるが空腹感が無いのだ。他の生き物に倣って一度、宮殿を訪れた若いカジキマグロをかじったことはあったけれど、それほど美味しくはなかった。  そしてお父様に小言を言われた。 「生き物は他の生き物を食べて生きている。だからお前が他の生き物を食べることには反対しない。けれど食べなくてもいいものを食べるというのは、我々一族にとっては少し残酷ではないかね」  と。  白い貝と赤いサンゴで彩られた廊下を歩く。水晶の天井の上ではヤドカリが茶色い貝に引っ越しをしようとからだを曲げて苦闘していた。さらにその上から、水晶を通してまぶしい陽光が海中にも届いた。  日差しの差し込み具合から、もう昼だと気付く。いけない、今日はまだ家庭教師に授業を受ける日だった。  ミレナは大粒の真っ白な真珠でできた首飾りをつけ、家庭教師の待つ勉学の間へと急いだ。
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