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瀬山 7
「おぉ、わかった、わかった。花簪でもなんでも買ってやる。」
「あぁぁ・・利兵衛さんは男だねぇ・・あぁぁ・・」
よがり声を混ぜながら、金を出させる。それさえ済めば、あとは早く終わるように内股をきつく締めるだけだ。
「はぁあぁぁ・・・ぬしの体は・・たまらない。」
御簾紙で利兵衛から出てきたよごれを拭き取る。早く水で流したい。
「利兵衛さん、汗をお拭きなさい。」
煙草盆を引き寄せて煙管に火をつける。一服して満足そうな利兵衛に煙管を手渡す。居続けなら金も稼げるが、どうせ返し切らない借金なら金など稼がずとも構わない。この鬢付油の匂いがしなくなるほうがいい。早く帰ってくれないか。
「朝までここにいておくんなし。」
「可愛いぬしの傍にいたいが、明日は大事な商売がある。」
あぁ、よかった。早く帰っておくれ。
「そんなこと言わずに・・いておくれ。」
大事な商売なら引き留めても帰るだろう。
「無理をいうな。また来る。」
「冷たいお人やわ。」
「花簪だったか、これで買うといい。」
利兵衛が紙入れから銭をくれる。これさえ手に入れば、もういいさ。
「わぁ、利兵衛さんはほんとに男だ。利兵衛さんのようになんでも買ってくれるお人は他にはおらんえ。」
大袈裟に喜んで見せても、少しも疑わずに鵜呑みにする。まったく男は阿呆だねぇ。
「また来る。」
利兵衛は男の自信を持って帰る。女郎が作ってやった幻だとは気づかない。男はめでたい。
「仙吉!仙吉!利兵衛さんがお帰りだよ。」
さっさと若い者を呼んで見送りをさせる。
「わっちは次まで待ちきれん。」
「ぬしにはかなわんな。待てん、待てんと言うが、ほんとに待っておるのはわしのほうじゃ。」
また若い者の声がかかる。
「瀬山さん、お仕度うー。」
「瀬山さん、お仕度うー。」
「瀬山さん、お仕度うー。」
見立てで直きづけの客が何人来ただろ。初会ばかり三人か、四人か。股が千切れて痛い。何年たっても治らない。治らないうちにまた裂ける。もう涙も出ない。終わることだけ考える。
「八つでございますぅ。八つでございますぅ。」
ようやっと不寝番が大引けの拍子木を打った。ぼろ布のような体を階下に降ろし、内所の前まで体を引き摺る。時札を掛け替える手を伸ばすと頭がはち切れそうになる。足の先まで痛みが突き抜ける。今日は居続けの客もいない。眠りたい。そのまま目が覚めないといい。
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