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「はい。今は大丈夫なんですか?」
「和文君が早く来てくれたから大丈夫。愛花は眠っているよ」
「誠さん、雨強くなりましたね」
コップを置いて、海原さんは外へ視線を向けた。
一段と激しくなる音を聞いた誠さんは、大きく溜め息をつく。
「今日は難しいかもしれないな。あゆちゃん、ちょっと調理場に行ってくる。ついでに飲み物も持ってくるから」
ポリポリと頭を掻きながら、誠さんは奥へと歩いていった。
「あの。仕事に、行かなくて大丈夫なんですか?」
静かすぎる室内に、海原さんと二人っきり。
時計の音が重く響き渡って、雨の音さえも響いてくる。
「これを飲み終えたら行くつもり」
悪戯っぽい笑みを浮かべて、海原さんは目の前に置かれているコップを指した。
「………それよりも、あのあと何かあったの?本当に酷い顔だよ、あゆちゃん」
「え?」
「今の時間は…まだ学校だよね?」
意味深に微笑んだ海原さんは、右手首につけている腕時計へ視線を向ける。
「だけど、今はこの場所にいる。聞きたいのはこっちだよ?」
「……。」
海原さんの視線を逸らすように、あたしは俯いてしまう。
「凛か?」
「は、い?」
やけに低すぎる声に、思わずあたしは頭をあげてしまった。
「図星」
あたしの顔を見て、さらに黒い笑みを浮かべて微笑んだ。
「凛の性格からしたら、簡単に身を引くとは思えないけど」
海原さんは苦笑いをして、カウンターに腕を乗せた。
「あゆちゃんは、それでいいの?」
頬杖をついて確かめるような瞳で問いかけた。
「あたしは、お兄ちゃんが幸せになれるなら…」
「ふぅん。あゆちゃんの気持ちって軽いんだね」
「軽くありません!!」
くすくすと面白そうに笑う海原さんに、思わず頬を膨らませて睨んでしまった。
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