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3.おおかみなんかこわくない
「キスは嫌。しない」
うっすらと産毛みたいなひげが生えた口元が近づいてくると、俺はぷいと顔を横にそむけた。
細長い鏡の下の方に組み敷かれて映る俺は、女にはとても見えない。
1年D組の出し物は男子校でありがちな女装カフェ。
ワインレッド色のケープと揃いのパフ袖のワンピース。胸元や裾はレースで縁取られている。色っぽさよりは少女趣味だ。俺がこの服を選んだわけじゃない、厳正たるくじ引き。
スカートは股がすうすうすると知った。だから白いレースの短パンや、スカート型の下穿きやらたくさん着けた。その真ん中には屹立する雄の性器。
さすがに3年生は手慣れていて、俺のいいところを難なく衝いてくる。
「ん…きもちい…」
太腿まである白いレースの靴下(ニーハイと呼ぶそうだ)は、めがねの先輩のたっての希望で着けたまま。
「赤ずきんちゃん、そそるね」
めがねを指でくいっと上げた。
男同士は治外法権だ。いつでも。
じゃあね、2番と9番がぁ、…キス!
小等部までは共学だったんだよね。よくおぼえてる。そのときの数字まで。
小6だった。王様ゲームってものを知った同級生が、やろうと言い出した。
最初は漫画を貸せとか宿題を代わりにやれっていう、子どもらしい穏当な命令が続いた。そのうち、2人以上を指名して何かをさせてもいいんだってみんなが気づいたあたりから悪のりが始まった。叩けとか、相手の嫌な所を言えとか。
キース、キース! ってはやし立てる女子たち。男子はその単語を口に出すのが恥ずかしかったのか、にやけと気まずさが混在する表情で見守ってた。
女子だって、自分たちのお仲間である女子の誰かと男子がそんな羽目になったとしたら、やめなよ! なんて潔癖に諌めただろうに。
でもユウと俺はどう見ても男同士で、仲良しの幼なじみだったものだから。
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