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12歳。俺はその頃すでにキスをどういう関係の人たちがするか知っていたし、子ども心に見ちゃいけないものだと感じていた。
だから、ユウは断固としてしないか、ノリに屈したとしてもおでこか髪にでもされるもんだと思っていた。頬にすら、ないだろうって。
でも違った。
そう、あいつは昔から真面目で、ルールは絶対に守るべし、って意固地な男だった。
硬い唇。けどその硬さのすぐ下は柔らかいんだろうなってわかるような、熱さをはらんでた。
1秒間もなかったかもしれない。
これで文句ねえだろ。
あいつは、俺のシャツの襟首をつかんだままそう言い放った。
で、俺はユウをぶん殴った。
クラブ棟、野球部の部室。こんな場所にお祭りのときは誰も来ない。
行事の日ってやっぱりテンションが上がる。大して関心がないつもりでも空気にのまれる。俺自身も例外じゃない。
「いいか?」
「そこばっか、や…だっ」
「ぐずぐずじゃねえか、もう」
「だって…あ…あ!」
どこにもたどり着かないふたつの欲情は満たされないまま、それでも絡み合う。
めがねの人は3年生で、夏まで野球部のマネージャーをしていたそうだ。少し渋った俺だが、中等部まではプレイヤーだったそうで、ガタイは申し分なかったから受け入れた(そう、文字どおりに)。野球部は参加する大会側で黒髪を規定していることが多いそうで、黒髪だったし。
錯覚させてくれる。
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