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「アキ」
「ユウ!」
その瞬間、さっきまで俺の上や下で腰を振ってた3年生のことはきれいさっぱり忘れた。ユウに向かって一目散に駆け寄る。思いがけず親切にされた孤独な野良犬みたいに。
「うわっと」
抱きつくと驚いた声を上げた。けれど、でかい体は微動だにもしない。
かぶりもののせいで、今日のユウは周囲から頭ひとつ分どころかみっつ分くらい、大きい。
D組の女装カフェで、ユウはウエイターの仮装におさまったようだ。黒のお仕着せに、大きく開けた口のところから顔を出す黒い狼のマスク。
胸に顔を押しつける。硬い筋肉。誰も寄せつけないって感じ。
「かっちりした服、似合うな…」
小花柄のワンピースにブラジャーやウイッグまでセットの女装姿とかも、見てみたかったけども。
妙なのじゃなくて良かった、とユウは素直な感想を吐く。
「これみて」
抱きついたまま、片手でベロアのワンピースの腰のあたりをつまんで引き上げる。
間近で見上げるユウの顔。あごからのどぼとけにかけてのごつごつした線。
ねえ、ユウはどんな子が好みなの。
にわかに、騒々しい声。
振り向くと、教室の扉に下げたカフェ風カーテンをめくって、大学生らしい若い男がふたり出て来た。
俺と目が合うと、何かを投げてきた。反射的にキャッチする。
「君、かわいいね。おにーさんと一発やらない?」
「ばっか、男子校だろ」
ははは、と笑いながら立ち去って行く見た目はさわやかなニ人組。
手の中には、お菓子が残されていた。外国製らしい毒々しい色をしたグミゼリーの小袋。ハロウィンだから?
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