3.おおかみなんかこわくない

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「アキ」 「ユウ!」 その瞬間、さっきまで俺の上や下で腰を振ってた3年生のことはきれいさっぱり忘れた。ユウに向かって一目散に駆け寄る。思いがけず親切にされた孤独な野良犬みたいに。 「うわっと」 抱きつくと驚いた声を上げた。けれど、でかい体は微動だにもしない。 かぶりもののせいで、今日のユウは周囲から頭ひとつ分どころかみっつ分くらい、大きい。 D組の女装カフェで、ユウはウエイターの仮装におさまったようだ。黒のお仕着せに、大きく開けた口のところから顔を出す黒い(おおかみ)のマスク。 胸に顔を押しつける。硬い筋肉。誰も寄せつけないって感じ。 「かっちりした服、似合うな…」 小花柄のワンピースにブラジャーやウイッグまでセットの女装姿とかも、見てみたかったけども。 妙なのじゃなくて良かった、とユウは素直な感想を吐く。 「これみて」 抱きついたまま、片手でベロアのワンピースの腰のあたりをつまんで引き上げる。 間近で見上げるユウの顔。あごからのどぼとけにかけてのごつごつした線。 ねえ、ユウはどんな子が好みなの。 にわかに、騒々しい声。 振り向くと、教室の扉に下げたカフェ風カーテンをめくって、大学生らしい若い男がふたり出て来た。 俺と目が合うと、何かを投げてきた。反射的にキャッチする。 「君、かわいいね。おにーさんと一発やらない?」 「ばっか、男子校だろ」 ははは、と笑いながら立ち去って行く見た目はさわやかなニ人組。 手の中には、お菓子が残されていた。外国製らしい毒々しい色をしたグミゼリーの小袋。ハロウィンだから?
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