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「悠陽ぃ、相方が待ってんぜー」
前髪の細かな雨粒を顔を振って払う。
ユウや俺と同じ1年のバレー部員は、振り返ってそう声をかけるが、俺とは特に会話をすることなく立ち去って行く。
ユウと俺は幼稚園の頃から公認の仲だ。
ただし、幼なじみとして。
相方、相棒、旦那もしくは嫁。愛人。片割れ。男子校で、その呼ばれ方はヴァリエーションに富んでいる。
親友という単語は嘘くさくて嫌い。なにも表していないと思う。
学校指定じゃない上下黒のジャージと、恥ずかしいくらいに堂々と校名とvolleyballって文字が刺繍されたバッグを提げてユウが出入口前の階段を降りて来る。
俺は全身の細胞がそそり立つ心地がして、腰かけていた花壇のれんがから立ち上がる。
「ユウ、汗くさい」
襟元に顔を近づける。
本当は、こっちを向くと首に浮き出る骨を舐めたい。しょっぱさや苦さを舌先で感じたい。でも嫌われるから、しない。
「あたりまえだろーが。誰かさんと違って俺は部活動に勤しんでんの」
俺だって運動に勤しんでたもん。
「背ばっか伸びてさあ…」
小等部までは同じくらいの背丈だったのに。
今はユウの肩にやっと、俺の頭のてっぺんが届くくらいの身長差がついた。
「なんか食ってく?」
「月見バーガー、もう食った?」
部活も委員会活動もしていない、学習室や図書室にこもるタイプでもない俺が、放課後バレー部が終わるまでどこでなにをして時間を潰しているのか、ユウがたずねたことはない。
「雨降ってるな」
駅が見えてくる頃になって、やっとユウは折りたたみ傘を取り出した。傘持ってたのかよ。
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