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夜半。ベランダから屋根を伝えば、ユウの部屋に行ける。その距離は親に言わせれば、「水谷さんちと関係が良くなかったらご近所トラブルに発展しかねなかった」。詳しくは知らないがちょっとした設計ミスでこんなに近い、らしい。
10月だから窓は開いていた。声もかけずに勝手に入る。
「今ふろ出たとこ」
シャンプーの香り。ぬれた毛先。スポドリのペットボトル。
ユウもまた、侵入してきた俺を当然のように迎える。
子どもの頃からほとんど変わらない部屋。机に敷いたビニール張りの、ふりがなが振られた世界地図さえそのままだ。だって地理の勉強のとき便利じゃんと言って。
ユウの家は自室ではテレビを見たりゲームをしてはいけない決まりらしく、モニターやゲーム機はない。だからそれ目当てでユウが俺の部屋に来ることもある。
「歯みがきもしてきた。あとは寝るだけ」
「だったら自分ちで寝ろよ」
言いながらも、ベッドの俺のとなりに肌掛けをめくってすべり込んで来る。そもそも、ひとのベッドにことわりもなく先に入る、俺。
どれもこれも、幼なじみだからあたりまえ。幼なじみだから許されている。
「日曜、試合とかあんの?」
「ない」
「じゃ、デート?」
こないだカノジョ連れ込んでたね。
頬づえをついて窓からずっと見てた。平日の夕方で親はいなかったはずだ。勉強をしていたみたいだった。健全な男女交際。
「ふられた」
まじ?
俺はうれしくなって、ユウに背中から抱きつく。俺はひどいやつだ。幼なじみの不幸を願い、喜ぶのだから。
「…ユウはがさつだからなー。バレー馬鹿だし」
うれしいはずなのに泣きたくなるのはなんでだろう。
ユウは俺の腕を払わない。
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