2.やきそばパン

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「動いて、名前呼んで」 「…今井?」 「そうじゃなくて」 「ごめん、下の名前なんだっけ」 「空輝(あき)」 「…アキ、」 「もっと」 名前を呼ばれながらシたい。 腰の位置を変えたり、首に腕をからめるうちに気分が高まってきたのか、テニス部くんはじょじょに強く動く。 「あっ………ん…、」 「…アキ」 「もっと奥、がいぃ…」 切羽詰まったような、へんなかお。 本当にこのかおは誰相手でも、ヤってるとき以外には見られない、と妙なところでしみじみと感心してしまう。 あいつもこういう顔、するのかな。 それとも仏頂面のままかな。それはそれで興奮するけど。 きっと最中はあまりしゃべらない。汗が玉になって俺の胸や腹に落ちてくるだろうか、汗っかきだから。 「アキ、なんか、すげ…」 自制できないって感じだ。ひょこひょこ動く腰。押し殺せない熱をはらんだ瞳。 あいつも、こんなんなっちゃったり、するのかな。 そうさせるのは…俺じゃない俺以外の誰かだ。 「もっと呼んで」 なにも考えなくさせて。 気が狂いそうになるんだよ、あいつのとなりに平気なふりしていると。 「…ぐちゃぐちゃに、して」 テニス部くんの後頭部の髪の毛をつかむ。さらさらしていて、指のあいだをすべる。 欲望が。俺の内を容赦なく(えぐ)る。俺のよこしまな感情もぐちゃぐちゃにして。 「アキ…俺、もう…っ」 イっていいよ。俺も勝手にイくから。 「アキー?」 「こら、乱暴に開けるな。それに保健室では静かに」 「すみません」 切り裂くような音がして、まぶたの裏が白く明るくなる。 「どしたんだよ、体調悪い?」 「…ユウ?」 目の前にユウがいた。 「…ここどこ? なんでユウがいるの」 からだを起こす。目が完全には開かなくて視界がぼやける。制服で、突っ立って俺を見てる。 ふいに手が伸びてくる。 俺のテリトリーをやすやすと破って。 耳の下にてのひらをあてがう。俺はびくりと肩をはねさせる。
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