2.やきそばパン

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「…大丈夫か? ぼおっとして」 「…ん」 ユウの指が。耳朶(みみたぶ)に触れそうで、触れない。首をすくめて顔ごと視線をそらしてやり過ごす。でもそのしぐさは逆に、体を撫でられたくて人の手にすり寄る猫みたいだと思った。 「もう放課後だぞー」 大人の声。 保健室。 そう言われれば、仕切りカーテンも枕もふとんも、ひたすら白い。そして薬臭い。 「熱はなし。横になったらすぐに寝ちゃったよ。夜遊びでもしてたんだろ、なあ?」 養護教諭は男子校だからか、女性ではなく若い男だった。さわやか系。 ユウは先生を振り返って、それからまた俺を見た。 意外としつこくされた。二回目はやたらと俺に「感じる」かどうかを聞いてきた。 次会う約束をとりつけられそうになって、忙しいからと言って逃げた。 それで疲れたから、ここに寝に来たんだった。 ユウはひとさし指で俺のニセモノの栗色の毛先に(かす)めるように触れる。 俺はひそかに息を吐く。髪に神経なんか、通っていないはずなのに。 「…アキ。お前さ、」 「え?」 「…なんでもない」 言いかけてためらってやめるなんて、ユウらしくない。俺を見てる、どっちかというと冷たい印象を与える目。 「やきそばパン買って来た。食える?」 手をぱっと離すと、代わりみたいに反対の手を掲げる。パンがぎっしり詰まったビニール袋。 「…食うっ」 うちの高等部の名物、自家製のスパイシーなソースが売り。ユウが買って来てくれたもんならなんでも食べる。 「じゃ俺、体育館に戻るから」 「今井くん。念のため、今日は誰かといっしょに帰った方がいいな」 先生、ナイスアシスト。 ユウは再び、背後と俺とを交互に見比べる。 思っていることそのまんまの動きだ。 それから、口元を不機嫌そうに一度引き結ぶ。 「帰るぞ」 「俺のためにさぼってくれんの?」 ユウはさっさと俺に背中を向けて出て行こうとする。 ねえ、ふたりでどっか行っちゃおうよ。学校でも家でもない場所に。ユウと俺しかいない場所に。
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