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「…大丈夫か? ぼおっとして」
「…ん」
ユウの指が。耳朶に触れそうで、触れない。首をすくめて顔ごと視線をそらしてやり過ごす。でもそのしぐさは逆に、体を撫でられたくて人の手にすり寄る猫みたいだと思った。
「もう放課後だぞー」
大人の声。
保健室。
そう言われれば、仕切りカーテンも枕もふとんも、ひたすら白い。そして薬臭い。
「熱はなし。横になったらすぐに寝ちゃったよ。夜遊びでもしてたんだろ、なあ?」
養護教諭は男子校だからか、女性ではなく若い男だった。さわやか系。
ユウは先生を振り返って、それからまた俺を見た。
意外としつこくされた。二回目はやたらと俺に「感じる」かどうかを聞いてきた。
次会う約束をとりつけられそうになって、忙しいからと言って逃げた。
それで疲れたから、ここに寝に来たんだった。
ユウはひとさし指で俺のニセモノの栗色の毛先に掠めるように触れる。
俺はひそかに息を吐く。髪に神経なんか、通っていないはずなのに。
「…アキ。お前さ、」
「え?」
「…なんでもない」
言いかけてためらってやめるなんて、ユウらしくない。俺を見てる、どっちかというと冷たい印象を与える目。
「やきそばパン買って来た。食える?」
手をぱっと離すと、代わりみたいに反対の手を掲げる。パンがぎっしり詰まったビニール袋。
「…食うっ」
うちの高等部の名物、自家製のスパイシーなソースが売り。ユウが買って来てくれたもんならなんでも食べる。
「じゃ俺、体育館に戻るから」
「今井くん。念のため、今日は誰かといっしょに帰った方がいいな」
先生、ナイスアシスト。
ユウは再び、背後と俺とを交互に見比べる。
思っていることそのまんまの動きだ。
それから、口元を不機嫌そうに一度引き結ぶ。
「帰るぞ」
「俺のためにさぼってくれんの?」
ユウはさっさと俺に背中を向けて出て行こうとする。
ねえ、ふたりでどっか行っちゃおうよ。学校でも家でもない場所に。ユウと俺しかいない場所に。
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