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あんな生白いテニス部員じゃ足りない。
口を開けて待つ。本当はほかのものを突っ込んで欲しいけどがまんする。
ユウはパンの包装をばりばりと音を立てて剥く。開け口もシールも無視。透明のフィルムはななめに裂けてしまう。
粗雑なその手つきで触れられたら死んでもいい。俺がそう思っているのをユウは知らない。そして、その思いを知られたら俺は死ぬ。
出口なし、だ。
「ほら」
口の前に差し出されたやきそばパンに、がぶりと噛みつく。
「いてっ。アキ、指まで食うなよ」
「あ、ごめーん」
心無い謝罪をする。
ユウの指、一瞬噛んだ。噛みたかったから。硬くてごつい。
ったく、とつぶやいてユウは中指を見つめる。
「血出ちゃった?」
そんなに強くしたつもりないんだけど。
「ソースついた」
ユウは自分の指を唇にあてる。それから、舌で舐めとった。
途端に心臓が跳ねる。なんでそんなことするんだよ。俺は反射的に目をそらす。
赤い舌先が焼きついてしまった。ほんの一瞬のことなのに。
ユウはのんきに俺がかじった残りのパンを食い始めた。やっぱうまいな、なんて言う。
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