くん、くん、くん。

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 *** 「はい、今日も散歩行くよコロッケー」 「わふわふわふわっふ!」  コロッケは人間も犬も大好きだが、時に家族相手だと喜びをあらわにしてくれるタイプの犬だ。彼がシッポを振りつつヒコーキ耳をして、さらにジャンプというトリプルを披露していれるのは僕たち家族相手のみである。  散歩が嬉しくて機嫌最高潮になっているコロッケになんとかハーネスをつけると、その日も僕は彼と一緒に散歩に繰り出したのだった。そう、あれは僕が小学校三年生になってからのこと。コロッケは十歳だったが、相変わらず元気いっぱいだった。  いつもの河川敷の道を歩き、橋の下を通ったその時である。 「ばふ?……わ……ふう?」  コロッケが何かに気付いたように足を止めた。ここで?と僕は眉をひそめたのである。  人目につきづらいせいか、橋の下にゴミを捨てていく人が少なくなかった。その日も、橋の下には大きな黒いビニール袋やら、足が壊れたトランクやらボロボロの鞄やら、とにかくいろんなものが乱雑に積み上げられていたのだった。なんと、コロッケはそのゴミの方にずんずんと近づいていってしまったのである。 「だ、駄目だよコロッケ!汚いよ!近づいちゃ駄目だって!!」  おかしい。普段なら言うことをすぐきくコロッケが、僕に逆らってずんずんリードを引っ張っていく。生ごみと、それだけではない独特の臭いが鼻をついた。なんだか、今日はいつにも増して臭いがひどい気がする。  そして、コロッケの様子もなんだかおかしい。  いつもきれいにお尻の上でくるんと巻いているはずのシッポが、だらんと下がっている。  そして何かを警戒するように身を屈めているのだ。嫌な予感が強くなった。しかし、コロッケはオスの柴犬で、結構力も強い。逆らうことができず、僕も彼に引っ張られる形でゴミ山の前に立つことになってしまう。  そしてコロッケは、くんくんくん、と臭いをかぎ始めた。しまいには、嗅いだゴミの中心を、前足でホリホリし始めたのだ。 「ま、まずいってば、ねえ!コロッケ!コロッケ!」  次の瞬間、びり、と黒いゴミ袋が破れた。そして。 「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」  僕は絶叫することになる。  そこからぶわあああ、と大量の蠅が飛び出してきたのだから。
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