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「これ以上していたら、キスだけで終われなくなる」
その声はどこか切羽詰まっていて、表情にも余裕がない。けれど彼は苦々しく笑った。
「でも未希に無理をさせるつもりはないんだ。体調だって」
「あの」
隼人さんの言いたい内容を汲んで、私が声をあげた。そうだ。元気になったらちゃんと話すと言いつつ、彼を拒んだ理由を本人に伝えていなかった。
「違うんです。あのとき、その、先に進めなかったのは、隼人さんとの関係を改めて思い出したからなんです。それから前に付き合った人にいろいろ言われたのもあって……」
私の言葉を聞いた隼人さんは目を丸くしている。彼がなにか言う前に、一番の理由である自分の気持ちを正直に伝えることにした。
「なにより、あのまま抱かれていたら……もっと隼人さんのことが好きになりそうで怖かったんです」
言いながら恥ずかしさで声が小さくなる。でも本当のことだ。
「今は?」
不意に隼人さんに尋ねられ、私は少しだけ答えに迷う。
「今も……怖いです」
そこで一呼吸忍ばせ、思いきって先を続ける。
「だって、こんなに好きになって苦しいのも、愛されたいと思うのも隼人さんが初めてなんです」
決死の思いで告白したら、次の瞬間隼人さんにきつく抱きしめられ、私の足は床から離れた。
「あっ」
小さい子どもみたいに彼に抱き上げられ、急に視界が高くなる。
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